「広告」がマーケティング活動の中核として機能していたマス・マーケティング全盛時代と比べると、クライアントがパートナー企業に期待する機能や役割は変化しています。「メディア枠」の提供からマーケティング課題を解決する「ソリューション」の提供へ。「広告代理店」から「マーケティング支援会社」へと進化が始まっています。
広告業界のビジネスモデルが変化をしていく中で、広告業界の経営や人材マネジメントはどうあるべきなのでしょうか。20年以上にわたり、イベント会社を経営し、広告産業が抱えるプロジェクトマネジメントにおける課題に対する気づきから、現在はシービーティーを創業し、案件収支管理システムの「プロカン」を開発・提供する同社、社長の若村和明氏。本連載では、若村氏はじめシービーティーのメンバーと共に、広告・クリエイティブ産業のトップランナーの方たちに取材。連載5回目は、サイカ代表取締役社長CEOの平尾喜昭氏に話を聞きます。
企業からより求められる本質的な課題解決
― サイカは「分析」、「コンサルティング」と「実行支援」を、データサイエンスを軸に一気通貫して提供し、「データドリブン・マーケティング」の実現をサポートする事業を展開しています。本事業を行う中で感じている、業界に起きている変化をどのように捉えていますか。
私は現在、広告業界に起きている変化は3つあると捉えています。
ひとつ目は広告主サイドが、より本質的な課題解決を求めていることです。そして2つ目として、広告主サイドが本質的な課題解決を求めるようになった結果、多様な専門家の力を組み合わせて課題解決にあたるケースが増えてきているということ。企業側に「マーケティングのことは大手1社にすべてお願いすれば安心」という時代から「総合力で戦いたい、全て専門家で完璧なチームで戦いたい」という意識の変化が見られます。その変化に応じて、広告会社がネットワークを駆使し、編集力の素晴しさで競い合っているのが現在の状況です。
すでに市場には広告会社から独立した人を含む、フリーランスのプロフェッショナルが多く存在しています。広告主サイドは自社が持っているリソースのみで勝負するのではなく、外部の専門家を組み合わせるという「編集力」で勝負する時代になっていくのではないかと考えています。こうした流れを象徴するのが、韓国のドラマ制作集団「STUDIO Dragon(以下スタジオドラゴン)」です。スタジオドラゴンは全員プロデューサーで、制作者がひとりもいません。その代わりに、200人程の監督や脚本家と契約をしています。議論をしながらドラマの企画を練っていく形で、脚本は常に4話分が提出され、時代性など様々な軸で評価され、選び抜かれて制作に入るという形を取っているのです。作品のクオリティを最大化するために「視聴者を楽しませる」という明確なゴールを設定しています。もし彼らが制作者や脚本家に至るまで、全部自分たちで抱え込んでいたら、このように自由なスタイルで発想して、面白い作品をつくることはできなかったのではないでしょうか。最高の才能を組み合わせ、最高の成果を出して、参加したメンバーは働きに応じて対価をしっかりと受け取れる。これは世界のクリエイティブ産業で起きている潮流で、日本の広告業界においても待ったなしで起きる変化だと思います。
広告会社のような企業組織においては、これが経営管理、収支管理、個の評価の戦略にも影響すると見ています。