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社会学の視点

ネガティブ・ケイパビリティと共感(1)

遠藤薫氏 学習院大学 名誉教授

悲しいCMは商品広告となるか?

誰かが悲しんでいる姿を見るのは辛い。誰も泣くことのない、みんなが心から笑っていられる世界があれば良いのに…。誰もがそれを願っている。だから、CMには笑顔が多い。その商品が幸福な未来を約束してくれるかのように。

でも時々、それが嘘くさく思える時もある。そんな時思い出すのが、1981年に放送された「雨と子犬」というCMである。京都の町。雨の中を子犬が1匹、懸命に駆けていく。雑踏に踏まれそうになりながら、木で雨宿りをしたり、自転車にひかれそうになったりしながら、ひたすら駆けていく。そのあてどなさが胸を締め付ける。「いろんな命が生きているんだな。元気で。とりあえず元気で。みんな元気で」。しみじみ語るナレーションが、思わず涙を誘う。「誰か、この子犬を拾ってあげて」と願ったことを覚えている方も多いだろう。

これは、同年のカンヌ国際広告映画祭(当時名称)・金賞を受賞した、サントリー・トリスウィスキーのCMである。「雨の中を走る犬がウイスキーに何の関係があるんだ」とのお叱りを受けたという制作者の話を読んだ気がする。確かに、美しい風景やおもしろ動画の後に唐突に商品名が出てくるCMには違和感を覚えることが多いが、このCMは比較的低価格帯のウイスキーの…

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