大量生産・大量流通を前提にサプライチェーンが構成されてきた製造業。それゆえに社会や顧客の変化に合わせてプロダクトを変えることは難しいという課題もある。では、製造業がアジャイルにマーケティングの4Pを調整しながら商品を提供することは不可能なのか。グローバルでのマーケティング実務に携わる玉井博久氏が、その解決策を解説する。
進むハイブリッド購買 ニーズに合う買い方を選ぶ時代に
この3~4カ月間、私が住んでいるシンガポールで最もよく聞く単語のひとつに「ハイブリッド」があります。例えば「ハイブリッドな働き方」などです。オフィスで働いてもよし、家で働いてもよしという考え方です。特にシンガポールの人材市場ではハイブリッドな働き方がどこまで可能かという質問が、応募者から面接官によく聞かれるようで、優秀な人材を惹きつけるひとつの要素になりそうだと聞きます。
このハイブリッドが浸透しているのは、消費者の購買行動も同じ。具体的には店頭購買とオンライン(EC)購買とのハイブリッドです。例えばシンガポールのレストランに行って店内で食事をしていると、Grab*のドライバーが他の客と同じように入ってきてデリバリー用の食事をピックアップして出ていくのを目にします。インドネシアのトラディショナルトレード(昔の駄菓子屋のようなパパママショップ)でも、近所のお客さまが買いに行くだけでなく、Grabのドライバーが指定された商品を選んで出ていきます。
ドライバーが商品をピックアップするために店頭に来るという行為はコロナ前からあったかもしれませんが、コロナパンデミックによって加速された「新しい日常」とも言えるでしょう。
コロナ規制が収まってきた今、「明日会社に行くか行かないか」を選択するように、私たちは「商品を自分で買いに行くか、デリバリーしてもらうか、もしくは今買って後で都合の良い時に取りに行くか」を選択できます。自分たちのニーズに合った購買の形が色々あることに、コロナパンデミックで気づかされたわけです。
ハイブリッド購買は 顧客起点のデータ取得を進める
消費者のハイブリッド購買は、今まで可視化されなかった個人の購買データを取得できる機会を増やしてくれます。よほどCRMに力を入れている企業を除いて、これまでバイネームで誰が、いつ、どこで何を買ったのかというデータは得がたいものでした。POSデータを活用できたとは言え、どういう商品が、いつ、どこで、よく買われたのかという商品起点のデータはあったものの、「誰」という顧客起点のデータ取得はなかなか...