先行き不透明で、近い将来であっても何が起こるかわからない昨今。企業は環境の変化に対応した柔軟な行動を求められている。しかし、大きな組織であればあるほど意思決定が遅れてしまう現状も。このような中でアジャイルやエフェクチュエーションをマーケティングに活用するためには何が必要なのか。神戸大学 教授の栗木契氏が解説する。
VUCA時代に求められる「まず実行」の考え方
エフェクチュエーションとは、米国の起業家研究の第一人者であるサラス・サラスバシー教授が提唱した市場創造の実効理論であり、優れた起業家に共通する行動や思考を体系化したものです。そこでは、いわゆるアジャイルな行動と似たような経営の動きが推奨されます。マーケティング活動で言えば、大規模なリサーチを行い、しっかりと計画を立てて実行するのではなく、まずは小さくても行動を起こし、その結果、得られるデータを見ながら臨機応変に対応していくことが優先されます。
昨今、エフェクチュエーションやアジャイルは、マーケティングの世界でも注目されています。なぜ国内外のマーケターからエフェクチュエーションやアジャイルが注目されているのか。理由のひとつは環境変化の速さ。時間を要する大規模な市場調査をしていると、結果が出る頃には環境が変わってしまうリスクがあることです。
マイナーチェンジ程度ならまだしも、新規事業・ブランドの立ち上げとなると、市場の分析や検討に2~3年を要することも少なくありません。一方で、新型コロナの影響はおさまりつつありますが、世界の不安定化は止みません。調査分析に時間を要していたら、その間に状況が次々に変わっていきます。そこでは、仮説を立てるための調査に時間をかけるより、環境に合わせた施策を小刻みに実行していく方が良いわけです。
2つ目の理由は、デジタル時代において、事業進行における有効なフローが変化したことです。緻密な仮説を立てる前に、実験的にプロトタイプをつくり、リリースしてみる。そしてデータを取得し、素早く改善する。データを容易に取得することができるようになった昨今は、こうしたアジャイルな開発手法が、実行しやすくなっています。
例えばPOSデータやSNSの声などに反応して、広告出稿を行えば、さらに新たな各種データを取得でき、それらを掛け合わせることが可能になっているのです。このように今では、業種・業態問わず、次々に施策を振り返りながら小刻みに前進していくことが可能になっています。こうした変化が、エフェクチュエーションやアジャイルへの関心を高めている...