消費者がブランドに対して抱く「共感」を紐解くと、人と人との関係性に帰着する。そもそも「共感」とはどのような心理状態なのか。どのように育まれるものなのか。『共感の正体』(河出書房新社)著者の山竹伸二氏が解説する。
対人関係に大きな影響を及ぼす「共感」のスキル
ここ数年、ビジネスシーンにおいても「共感」が注目されています。共感ができる人は顧客や上司、同僚の信頼を得る可能性が高いこともありますが、企業に対する消費者の共感はそのまま業績に直結するからです。
誰もが思いあたるはずですが、共感すれば相手の気持ちを理解できるため、喜びを分かち合いたい、助けたい、という気持ちにさせることができます。逆に共感があまりできない人間は、思いやりのない、冷たい人間だと思われます。心理的に距離を感じさせ、親密な関係に発展しにくいのです。特に他人に無関心で自己中心性が強い人は、相手の感情を想像できず、共感を抱くことが難しい傾向にあります。
このように共感は対人関係に大きな影響を及ぼす、とても重要なものなのです。
実は共感の心理的メカニズムについては未解明な部分が多いのですが、神経科学や動物行動学、発達心理学の進歩によって、近年、多くのことがわかってきました。
例えば、チンパンジーやゾウ、イルカなど、多くの哺乳動物にも共感が生じること、これらの哺乳動物は共感によって協力し合うことがわかっています。仲間が苦しんでいれば、落ち着かなくなり、興奮し、助けようとするのです。
また、人間の赤ちゃんも苦しんでいる様子の相手に近づき、慰めるような、助けるようなふるまいを見せるため、共感が生じている可能性は高いと言えます。こう言われると「赤ちゃんに他人の感情が理解できるはずはない」と思う方もいるかもしれません。確かに、以前は心理学の世界でも、共感は他人の身になって考える想像力、高度な認知能力が必要だと考えられていました。
しかし、最近の研究では高度な認知能力の発達以前に、感情の伝染とも言うべき共振現象が起きることがわかってきました。動物も赤ちゃんも高度な認知能力はありませんが、共感はできるのです。

模倣を含んだやり取りが強い絆をつくっていく
それでは、一体なぜそのような共感が生じるのでしょうか?
そこには相手のまねをすること、つまり「模倣」が関わっている可能性があります。相手の表情を模倣すると、相手と同じ感情が湧き上がってきた、という調査結果もありますし、模倣したときには相手と同じ神経反応が生じることも、神経科学の研究でわかっています。私たちは共感しているとき、相手の表情やふるまいを、無意識のうちに模倣していることが多いのです。
なるほど、悲しい表情をすると悲しい気持ちになるし、怒った表情を...