劇団、月刊「根本宗子」を主宰する劇作家・演出家の根本宗子氏。4月に初の長編小説を出版し、新たな表現の新境地を開拓した根本氏が思う、人と人とのコミュニケーションのあり方について、広告に対する考えも交えながら聞いた。
約10年の時を経て小説に12人の男女が繰り広げる群像劇
中学生時代から演劇の魅力に引き込まれ、高校卒業後に専門学校で学んだのち、19歳で劇団、月刊「根本宗子」を旗揚げした、劇作家で演出家の根本宗子氏。月刊「根本宗子」の全作品の脚本・演出を務め、2017年には「皆、シンデレラがやりたい。」で第17回バッカーズ演劇奨励賞を受賞するなど、次世代演劇界を担う劇作家として注目されている。
そんな根本氏は2022年4月に初の長編小説『今、出来る、精一杯。』(小学館)を刊行。本作は、2013年の初演後、再演を重ねた人気作である同タイトルの戯曲の脚本を、新たに小説用に書き下ろしたもの。戯曲「今、出来る、精一杯。」は、2019年にはシンガーソングライターの清竜人氏を主演兼音楽監督に迎え新国立劇場で音楽劇としても上演されている。
今回、小説化に至った経緯について根本氏は、「新国立劇場での公演を出版社の編集担当の方が観て、この舞台を小説化しませんかと提案いただきました。何度も公演してきた作品だったこともあり、何か別の形で残せないかなと考えていた時期だったので、これは良いタイミングだと思い、書籍化することを決めました」と話す。
本作品の舞台は、東京都三鷹市。スーパー「ママズキッチン」のバックヤードで繰り広げられる男女12人の物語だ。12人という人数は、群像劇を得意とする根本氏の作品の中でも最多だという。
「脚本を書く際、『キャラクターの書き分けが難しいのでは?』という質問を受けることもありますが、作品にはいつも出演してほしい役者の方が存在するので、その方の個性や演じている姿などを想像すると、自然と人物像やストーリーが湧いてきます。なので、登場人物は何人いても、キャラクターが被るところはないですね」と根本氏。
喜怒哀楽、様々な感情をさらけ出した言葉の応酬、それにより傷つけ合う人々。本作品で根本氏は「対話を諦めない」ことを伝えたかったと話す。
「コミュニケーションにおいて、他者を理解するために必要なのは“相手の話を聞くこと”、そして“自分のことも話す”こと。この2つがかみ合うことが大切なのだと思います。いつの時代であったとしても、他者と完全に“わかり合う”ことは難しいです。しかし、昨今のコロナ禍で文字ベースでのコミュニケーションが...