パンデミックやロシアのウクライナ侵攻など、世界全体が揺れ動く中で、様々な情報が流通し、生活者にも混乱が広がった。このような状況下でいま、メディアはどのような役割を担っていくべきなのか。3人の有識者を招き、話を聞いた。
命にかかわるフェイクニュースも 増加する不安と生活者の行動変化
──世界を揺るがす大きな事態が続く中、生活者のメディアに対する意識や行動はどのように変化しているのでしょうか。
森田:私が属するエデルマンは定点的に「トラストバロメーター」という調査をグローバルで行っています。これは、影響力の大きい「政府」「企業」「NGO/NPO」「メディア」という4つの大きな組織に対して、世の中の信頼度を測るものです。この調査によると、ここ数年、特に新型コロナのパンデミックが始まってからは、メディアに対する信頼度が世界中で大きく下がってきていることがわかります。
原因のひとつには、メディアの多様化があります。次々と新しいメディアが登場するばかりか、ジャーナリストのみならず、一般の生活者も情報発信できるようになりました。それによって、情報が飽和状態になり、何を信じてよいのかわからない状況になっているのです。
特に最近では「フェイクニュース」という言葉に注目が集まっています。ロシアのウクライナ侵攻でも、フェイクニュース戦争のような状態になっており、生活者の中に、どのように情報を受け止めればよいのか、不安が広がっています。
平:私は、その“不安”が非常に大きなポイントだと考えています。パンデミックに関していえば、ワクチンの情報など、自分や家族、友人の健康・命に直接かかわる部分で、フェイクニュースか否かを判断しなければならない切実な状況になりました。もともと、ソーシャルメディア(SNS)はカジュアルに仲間内で楽しむツールでしたが、そこに健康・命に関する重要な情報が、フェイクニュースも含めて入ってきて混乱が起きた。そのため、何を信じて何を疑うかという、情報の虚実の境界があいまいになってしまいました。
さらにウクライナ侵攻では、SNSを通じて、現実の戦争の生々しい衝撃映像が流れてきます。SNSを通じて日常と戦場が直結してしまったことが、メディア環境の大きな変化だと思います。
島野:パンデミックでは人々の“行動”が制限され、戦争では“感情”が大きく揺さぶられた。心身ともに人々に大きな影響を与えていると思います。
当社が毎年行っている「メディア定点調査」で“行動”の変化を見てみると、昨年は生活者の「メディア接触時間」が非常に大きく伸びていることがわかりました。これはパンデミックの“行動”制限による在宅率の向上だけではなく、スマホやタブレットなどのデジタルの拡大が大きく影響しています。
一方で「インターネットの情報は、うのみにできない」と答えている人が84.3%、「気になるニュースは複数の情報源で確かめる」と回答した人が71.1%もいました。これは、“感情”の揺さぶりから生まれた“不安”や“懐疑心”が関与しているようにも考えられます。接触時間が伸びているのはこのように正しい情報かを見極めるために時間を使っている可能性も考えられます。
平:ウクライナ侵攻は、世界の枠組み自体を変えてしまうほどの大きな変化なので、多くの方々が不安に思うのは仕方がない面があります。特に今回は「ハイブリッド戦争」と言われ、フェイクニュースが情報戦の一端を担う武器としてSNSに氾濫しています。局面の変化も非常に速い。その情報量と変化のスピードに適切に対応していくのはかなり難しいことです。
森田:平先生が指摘した「世界の枠組みが変わる」とはまさにその通りで、パンデミックや戦争などが続き...