サステナブルな社会の実現を目指したミツカングループの食品ブランド「ZENB(ゼンブ)」のマーケティング部門を担当する長岡雅彦氏と、「Sustainability First(サステナビリティ・ファースト)」を掲げるユーグレナでヘルスケア事業に尽力している工藤萌氏。時代の先端を行く両者が、これまでの業績指標に替わる新たな価値について、意見を交わした。
社会を変えるためにはまずは売上を追いかける必要も
──工藤さんは前職の資生堂でブランドマネージャーを、長岡さんは以前は「味ぽん」のマーケティングを担当されていました。そんな2人が現在、マス・マーケティングについて感じていることを聞かせてください。
工藤:前提として、マス・マーケティング自体に問題があるとは思っていません。ただ、マーケティング手法として時代の価値観にフィットしづらくなってきているのは事実だと思います。資生堂での経験から思うことは、社会的なインパクトがある大型ブランドは、それだけの責任を担っているということ。だからこそ、ユーグレナ社は企業としてもっと大きくなる必要があると考えています。社会を変えるために、まずは売上を追いかけ、ブランド規模を拡大する。規模があるからこそ、社会に対しての影響力も生まれるのではないでしょうか。
長岡:2019年に立ち上げた、ミツカングループの新ブランド「ZENB」は、「植物を可能な限りまるごと使おう」というコンセプトのもと、スタートした事業です。全社的な今後の経営方針を体現するひとつの事業として、立ち上がったという側面もあります。
当社の多くの商品は小売店を経由した販売モデルをとってきましたが、「ZENB」はD2Cモデルを採用しています。背景を持った商品を既存の流通に乗せ、マス・マーケティングで大々的に販売しようとすると、顧客にコンセプトが伝わりきらない恐れがあると考えたからです。小売店を経由した販売モデルは、時間をかけて育てようとしている「ZENB」のようなブランドにはマッチしない側面もある。ブランドとしての価値をきちんと伝えていくために、D2Cモデルを選ぶことにしたのです。
計測しづらい効果を「成長の指標」とする方法は?
──社会や顧客へ提供している価値など、計測しづらい効果も含めて、ブランドの成長を評価できないのでしょうか。
工藤:こうした話を考える時、三段論法を用いると、なかなか定量化できない価値を説明できるようになるのではないでしょうか。たとえばユーグレナ社のヘルスケア事業部が掲げている事業目標のひとつに、「健康寿命を伸ばす」というものがあります。確かに日本人の健康寿命への貢献度合いを測定するのは難しいですが、三段論法を用いると次のように考えられます。
「健康寿命の延伸にはA 栄養バランス、B 良質な睡眠とストレスの調整、C 免疫力向上、この3つのバランスの取れた生活が必要です。このバランスが整った状態の人は、そうでない人に比べて健康寿命が例えば30%伸びる。そして、『ユーグレナ』を毎日1,000ミリグラム摂取すれば、A、B、Cのバランスを保てる人が80%ほどいる、という具体的なファクトが研究成果としてあれば、健康寿命への貢献を可視化できる」といった具合です。
この数字は、あくまでたとえですが、このように三段論法で導き出せば「ユーグレナ」の販売数を増やし、マスとしての浸透率を上げたほうが「寿命と健康寿命のギャップ」という社会課題は小さくなり、超高齢化社会の医療費削減にもつながるはず、というロジックが成立します。
つまり、この場合は「売上を伸ばすこと」が“ゴール”ではなく、“中間指標”に変わるわけです。これは、今までとは順序が逆の考え方にはなりますが、当社ではそうした評価方法を大切にしています。
長岡:当社でも「何を指標とするのか」「いかに定量化するのか」という話題は必ず出てきます。現在は、お客さまのNPS(ネットプロモータースコア)やブランドイメージ、LTV(ライフタイムバリュー)などで測っている状態です。
ただ、中長期的に成長させていくブランドである「ZENB」にとって、本来見るべき指標である「お客さまの未来にどう貢献していくのか?」という点については、なかなか定量化ができないです。先ほど挙げた指標は「今」のことを測るものですから、未来に対してまだ明確な指標を持てていないことが、課題のひとつです。
「地球にとって」のメリットを「自分にとって」のメリットに
──例えばコーヒーショップの“紙ストロー化”、ホテルの“アメニティ廃止”など、「地球」をステークホルダーとして見た場合、「顧客」というステークホルダーの満足感とトレードオフになる場合もあると思います。この課題はどのように解決していけるのでしょうか。
工藤:当社では、「地球への配慮」は大前提に置いており、その上で「各商品カテゴリーにおける主要な購買要因を...