寺院住職、研究者、教育者、文筆家。数々の肩書を持ち、幅広い分野に精通している水月昭道氏の目には、現在の広告はどのように映るのか。不要不急が避けられる時代の広告について、考えを聞いた。

水月昭道(みづき・しょうどう)さん
1967年、福岡県生まれ。寺院住職と研究・教育者及び文筆家の三足の草鞋をはく。バイク便ライダーを経て長崎で建築を学んだのち九州大学大学院博士課程修了。博士(人間環境学 九州大学)。専門は環境心理学・環境行動論。浄土真宗本願寺派西光寺住職。立命館大学客員教授。学校法人筑紫女学園理事。著書に『子どもの道くさ』(東信堂)、『高学歴ワーキングプア』(光文社新書)など。
不要不急の“道くさ”にはたくさんの“良さ”が詰まっていた
バイク便ライダーとして各地を回るうちに、その土地の建物に興味が湧き建築の道へ。そこから、建物やその土地で暮らす人間へと研究範囲を広げ、「子どもの健全な発達環境を支えるための地域デザイン」をテーマに、人間環境学で博士号を取得した水月昭道氏。現在は、実家である浄土真宗本願寺派西光寺で住職を務めつつ、大学での研究や講義といった教育活動や文筆家としての活動も行っている。
水月氏が執筆した博士論文を書籍としてまとめたのが2006年に東信堂より刊行された『子どもの道くさ』。本書は、福岡県内の小学校を対象にして、子どもたちの60種もの下校ルートをフィールドワークした内容をまとめたもの。子どもの安全が脅かされている社会状況の中で、安全の確保を最優先すべきという主張が、かえって彼らの健全な発達を阻害する可能性はないだろうかという疑問に対し、子どもの生活世界をつぶさに取り上げることで解答を示している。
難しい専門用語は使用せず、一般の人が読んでもわかるようまとめられているものの、刊行時は専門書として扱われ、一般の読者の目にはあまり触れられることがなく一度は絶版となった。
しかし2020年7月、ひとりの読者の発信が“バズった”ことをきっかけに『子どもの道くさ』への注目が急上昇。復刊が決定し、増刷している状態だという。
『子どもの道くさ』再ヒットの要因について水月氏は、コロナ禍で不要不急の外出を避けるよう心がける中、人々の子どもの頃の記憶が呼び起こされたのではないかと話す。
「大人になると何かしらの目的ありきでの外出が増えます。おそらく、コロナ禍以前はこのことを意識することすら、あまりなかったのではないかと思いますが、新型コロナで行動が制限されたことにより、目的に沿っていない“子どもの道くさ”のような“不要不急”の中に存在する味わいのようなものに、皆が気づいたのではないでしょうか」と水月氏。
目的を達成することはもちろん重要だが、目的外での物・人・情報とのふとした瞬間の出会いから得る学びも多いという。コロナ終息後は、この...