これまで取材や講演会で様々な企業を訪問し、700名以上のビジネスパーソンの言葉に耳を傾けてきた健康社会学者の河合薫氏。その表現手法は、実にわかりやすく、印象に残る。世の中の混沌とした問題を浮き彫りにし、新しい生き方を提言する時代のメッセンジャーの広告観とは。
マイノリティだった自分を主役に 異国の地の恩師への感謝
今年5月に出版された新刊『他人の足を引っぱる男たち』(日本経済新聞出版社)ほか、『上司と部下の「最終決戦」 勝ち残るミドルの"鉄則"』(日経BP社)、日経ビジネスの連載コラムなど、話題の著書や講演活動でひっぱりだこの河合薫氏。「ジジイの壁」「自己中モンスター部下の脅威」など、歯に衣をきせぬ実直な言葉を用い、鮮やかな視点から組織社会が抱える問題の本質を突きながらも、その核には現代を生きるマイノリティや若者への熱いエールがある。
現在は東京大学の非常勤講師も務める河合氏にバックグラウンドを聞くと、「学生時代は、キャリア志向は全くありませんでした。就職したら3年ぐらいで会社を辞めて主婦になりたいと思っていたこともあります。お洒落と買い物、おいしいものしか興味がない能天気な女子学生でした」と河合氏は振り返る。
小学4年から中学までを米国のアラバマ州で過ごした経験を持つ河合氏。米国の小学校に通っていた際の恩師、ミス・タナーは、人生で最も影響を受けた人物だと話す。
「学校では、私が初めての外国人でした。ローマ字で自分の名前を書くのが精一杯の私は、英語でコミュニケーションがとれないので一日中ニコニコしているしか術がなかった。そんなある日、地元新聞で『スマイルチャンピオン』を公募するとタナー先生は言い、『全員で決めましょう』と提案したんです」。
結果、新聞の一面に掲載されたのは幼い河合氏の笑顔だった。しかし、後にも先にもスマイルチャンピオンは存在せず、マイノリティだった河合氏を「主役」にし、適応を助ける配慮だったとのちに気付く。その優しさが「今を生きるマインドを育ててくれた。私の原点はミス・タナー先生」と河合氏は話す …