かつて音楽を楽しむ場は、家の中や車の中が中心だった。1979年に「ウォークマン」が、登場するまでは…。国内さらに世界で、"音楽を持ち歩く"という新しいスタイルをつくりだした、ソニーの「ウォークマン」が今年で発売40周年を迎える。
開発のきっかけとなったのは、ソニー創業者のひとりで、クラシック音楽好きとしても知られている故・井深大氏(当時名誉会長)の悩み。それは、「出張中の航空機内でも、良い音で好きな音楽を楽しみたい」というものだった。
1978年には小型テープレコーダーの「プレスマン」を発売していた同社。井深氏はエンジニアに、「『プレスマン』に、再生機能だけで良いからステレオ回路を入れたものをつくってくれんかな」、と"再生専用機"の開発を求めた。
こうして生み出された試作機を井深氏と、同じく当時会長で創業者のひとり故・盛田昭夫氏は大変に気に入ったという。
1979年初め、盛田氏は社内の関係者を招集し、この試作機の商品化を進めるよう号令を出した。
「若者に絶対に受ける」と読んだ盛田氏は、夏休み前に発売するように指示。「プレスマン」の金型を流用しながら、急ピッチで商品化が進められた。
こうして、同年7月に発売されたのが初代「ウォークマン」だ。そのユニークな商品名は、当時の宣伝部の若手が考えたもの。商品のヒットとともに、その名は瞬く間に世界に知れ渡ることになる。当初、海外の販売会社は「ウォークマン」を現地にローカライズした商品名(米国では「サウンドアバウト」など)で販売されていたが、発売の翌年にはグローバルで名称を統一するほどの勢いだった。
発売から40年。携帯電話の登場など様々な転機を乗り越えながら愛されてきた「ウォークマン」。井深氏自身がそうであったように、音楽好きのための再生専用機としての魅力をこれからも発信していく。
視点01 商品戦略
あえての「引き算」の商品開発
当時の常識では考えられなかった"再生専用機"として開発された「ウォークマン」。ソニーの岸貴展氏は「実は営業は『ウォークマン』の発売に反対していました。テープレコーダーが一般的だった当時、録音機能がない製品をどのように売り出せば、よいのか想像がつかなかったからです」と裏話を語る。
しかし当時、盛田氏は録音機能をつけない、再生専用機にこだわった。「それまで出来ていたことを、あえて出来なくする"引き算"によって、全く新しい使い方を提案したわけです」と岸氏。
第二世代からはラジオ機能の搭載や、小型化など付加価値の追求と並行し、CD、MD、ダウンロードといったメディア環境の変化とともに進化を続けてきた。
近年は「ウォークマン」は"オンガクには、オンガクの音"をキャッチコピーに、ハイレゾ音源に対応するなど"音質"のさらなる向上に注力。最新モデルではスマートフォンとBluetooth接続し、「ウォークマン」を介して音楽を聴くことで、より高音質で音楽を楽しむことが可能になっている …