ファッションを中心とした新しいライフスタイルの発信源である、フランス・パリ。パリに駐在する日本人マーケターが街中で見つけた、新しいトレンドを紹介。トレンドをマーケティングと異文化理解の2つのフレームから読み解きます。
なぜ、フランス人は「黄色いベスト」を身にまとうのか?
フランスではマクロン政権の改革に抗議する大規模デモ「黄色いベスト運動」(gilets jaunes)が続いています(1月末時点)。フランス政府は事態を沈静化するため、燃料税引き上げ中止や最低賃金引き上げなどの家計支援策を発表するも、根底には鬱積した「不公平な税制と政治」に対する怒りや将来不安があると見られ、いまだ収束の兆しが見えません。
今月は日本であまり報じられていない「黄色いベスト」のギミックとデモから垣間見えるフランス文化について触れたいと思います。
日本においてデモは過激集団による行為のように扱われますが、フランスでは市民の声を政府に届ける正当な手段と見なされています。このため、デモ自体は驚くことはないのですが、「黄色いベスト」が従来のデモと一線を画すのは、特定の政治思想による団体ではなく、生活に困窮する「庶民」がソーシャルメディア上で自然発生的に立ち上がり結束している点です。
深い政治不信を前提とした指導者不在の水平的な編成(ソーシャルメディア上の緩やかなつながり)は内部から名乗り出る指導者さえも拒絶し、仏政府は当初、交渉相手の特定に苦慮したとも言われています。
「黄色いベスト」がデモ隊のシンボルになっていますが、なぜ「黄色いベスト」を着用するのか──フランスでは安全対策として自動車内での安全ベスト(=黄色いベスト)の携行が義務付けられています。
本来は自動車が事故を起こし、車外に出る時に危険から身を守るために着用するものですが、市民は燃料増税等の不満や将来への不安を「危険」に見立て、皮肉を込めて「黄色いベスト」を着用しているのです …