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広告を「読む」。

「あなたが気づけばマナーは変わる。」の広告から読む、「たばこ」のこと。

山本高史

広告を読めば、なんかいろいろ見えてくる。例えば「たばこ」のこと。

日本たばこ産業(JT)2004年~
コピーライター 岡本欣也

この「広告を『読む』。」は「昔はよかった」という読後感を残したことがあったと思う。毎月テーマとする広告の「時代/社会/人間」を精査すれば、社会の変化はしばしば劣化とも見えた。過去を美化しがちなのは人間の自然な感情でもある。「昔はよかった」の思いにも一理はある。しかしその「昔はよかった」という感慨を自ら戒めなければならないのは、それは古い常識・風習・感情・論理を無反省に克服しないことである。

ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの『知らず知らずのうちに』(1973)の歌詞に

「知らず知らずのうちに
君の名前おぼえて
知らず知らずのうちに
町を歩いていた
知らず知らずのうちに
君の家をみつけて
知らず知らずのうちに
電話帳をひらいた」
(詞 宇崎竜童)

というものがある。その昔、NTTがまだ日本電信電話公社という組織であった頃、電話帳というものが各家庭に普通にあって、電話番号とその加入者の名前と住所が普通に載っていて、だからこそ「彼」は「彼女」の住所から電話番号を探ろうとしたのである。ケータイなどという便利な道具はなく、電話をかけるならば家の黒い電話か公衆電話。相手が一人暮らしでもなければ、下手すると電話に出るのはその親父で、「ウチの娘とどういう関係か」と不機嫌に問われる。名前から家を見つけて電話番号を調べ上げるような輩である。父親は問いつめて当然である。まさしく「個人情報」という観点からしてみればストーカーの疑いも濃厚だが、そんな言葉も概念すらもなかった「あの頃」は、「彼」の思いは純な恋心と共感された。

好きな歌である。あげつらう気など毛頭ない。それどころか異性を想う切なく、また抑えきれない感情と行動は、この年齢になっても痛いほどわかる。このシリーズで述べている「時代/社会/人間」を考えれば、それは「人間」という動物のオスの変わらない本質だと思う。しかし「時代/社会」は間違いなく変わった。ケータイの出現は、電話を世帯という枠を通過せず、個人と個人をつなぐコミュニケーションへと変質させ、あまりに高度なデジタル情報の中で個人を守るという名目で、各家庭に配布されていた電話帳や企業の社員住所録というアナログ情報は駆逐された。昔の世の中には、それはそれでよかったなと知らず知らずのうちに思いを馳せかねない反面、ここ広告を語る場所では、ぼくは異なる態度をとる。変化を、それが良かろうが悪かろうが、客観的に見極め、現状の方に寄り添うのが広告的態度だからだ(自分の思想信条はそれとは遠く別にあったとしても)。

あなたが気づけばマナーは変わる。」は2004年にスタートした、日本たばこ産業(JT)の「マナー広告」と位置づけられるものである。コピーライターは岡本欣也さん。今回は取材にご協力をいただいた。

日本の喫煙者は減少し続けている。「全国たばこ喫煙者率調査」によると、1965年に男性82.3%、女性15.7%だった喫煙率が、2000年にはそれぞれ53.5%、13.7%、直近2014年には30.3%、9.8%へと大きく右肩下がりのグラフを描いている。

ハンフリー・ボガート(1899~1957)の古い写真にはたばこがつきものである。『太陽にほえろ!』(1972~1986)で石原裕次郎演じる七曲署捜査第一係長は、部下の咥えるたばこに火をつけていた。たばこはスタイルの一部となって馴染んでいたし、時にはダンディズムを語るツールでもあった。ダンディを気取らずとも、たばこは居場所に困らなかった。国鉄の普通電車のボックスシートの窓の下には、あたりまえのように灰皿がついていた。飛行機のシートでも吸えた。映画館の上映中でも吸えた。エレベーターの中に灰皿があることは珍しくなかった。愛煙家にとっては夢のような話で、嫌煙家にとっては悪夢のような話である。実に、たばこにとっての「昔はよかった」である。その後たばこは、先述のような右肩下がりの数字を辿ることになるのだが、それにはいくつかの契機があった。

2002年7月に成立した「健康増進法」では、高齢者の健康やメタボリックシンドロームなどの問題と共に「受動喫煙」が重要なテーマとして取り上げられ、多数の利用者のいる施設の管理者に対して受動喫煙を防止する必要な措置が求められた。さらに2005年2月に発効した「たばこの規制に関する世界保健機関(WHO)枠組条約」は締結国にさまざまな(たばこにアゲインストな)ガイドラインを示し、日本国内でも受動喫煙への意識は高まり、またコミュニケーションや販売にも大きく影響を与えた。

具体的には …

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