顧客からのハラスメント行為(カスタマーハラスメント)への対応策を発表する企業やカスハラ対策に乗り出す自治体などの例が増えはじめている。国内におけるカスハラ対策の現況と、広報が押さえておきたいポイントについて解説する。
2024年は、カスハラが大きく注目された年になりました。それは、「ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされた事実をみても納得のいくところだと思います。筆者は、悪質クレームを研究し始めて20年たちますが、まさか流行語の候補になる日がくるとは考えもしませんでした。
さて、これほどまでに市民権を得たカスハラ、すなわち「カスタマーハラスメント」ですが、この用語自体は和製英語であるため英語圏の人には意味が通じにくいのが現状です。しかも、未だ正式な法的、学術的定義もありません。しかし、読者の皆さまにイメージしていただくために、まずは便宜上、暴言や暴力、不当な金品要求、長時間の拘束、土下座の強要といった「顧客等からの著しい迷惑行為」と捉えておきます。
なぜカスハラに注目が集まる?
そもそもカスハラが注目された契機は何だったのでしょうか。いくつか悪質クレームに関する有名な事例はありますが、最も大きな契機としては、2017年に産業別労働組合「UAゼンセン」が実施した悪質クレーム(迷惑行為)に関する実態調査が挙げられます。
この調査では、組合員約5万人のうちおよそ7割が来店客から何らかの迷惑行為を受けた経験のあることが明るみになり、その結果はメディアでも大きく取り上げられました。その後、様々な業界におけるカスハラの実態が連日のように報道され、一気に社会問題化し、対策を求める声が次第に大きくなっていきました。
ちなみに2024年に報告されたUAゼンセンの実態調査では、サービス業従事者の約半数(46.8%)が直近2年以内に迷惑行為の被害にあった経験があり、約3割(33.7%)が迷惑行為は「増えている」と感じていることが認められています。
注目されてからもなお、カスハラ被害は一向に収まる兆しがないため、より一層、社会全体で策を講じる機運が高まってきたといえます。
それでは、なぜ近年になって多くの企業が急速に対策に乗り出したのでしょうか。その理由はいくつか考えられますが、大きく分けて「カスハラがもたらす諸問題が指摘され始めたこと」と、「社会の動きに後押しされたこと」が挙げられると考えます。
対策に乗り出す企業増の要因
…