健康被害を最初に認識してから死亡事例の公表まで約2カ月がかかった小林製薬の紅麹サプリ問題。情報提供に消極的だったことへの批判が集まった。消費者の安全を最優先する意思決定を早期に行える組織との差は何なのか。危機管理における広報の役割とは。
2024年に企業危機管理の観点で最も注目された事例の一つが、小林製薬の紅麹関連製品の問題です。
小林製薬は2024年1月15日に紅麹関連製品を摂取していた消費者が急性腎不全を起こし入院治療中であると医療機関から情報提供を受け、その後、2月1日までの約2週間のうちに計6件の症例報告を受けたにもかかわらず、3月22日に消費者庁に報告するまで、対外的に公表することも製品回収することもありませんでした。
危機管理としての初動の遅さ、その後の広報対応の拙さなどで批判が目立ちました。
メディアはどう見た?
▶ 紅麹サプリ 責任の重大さ自覚せよ(朝日新聞、2024年3月29日)
▶ 小林製薬 説明尽くす自覚が見えぬ(産経新聞、2024年7月25日)
アンケートの声
▶ 最初の被害発覚からの流れが遅すぎる。保身しか考えていない印象だった。(35歳女性)
▶ 情報公開や回収までの動きが遅い。人命がかかわっている意識が薄い。(41歳男性)
消費者への注意喚起に遅れ
小林製薬が危機管理を失敗した根本的な原因は、症例報告を受けてからの動きが行政だけを意識したもので、小林製薬の製品を購入する消費者に対する意識が希薄だったことにあります。
小林製薬が7月23日に公表した調査報告書によると、お客様相談室が1月15日~2月1日の症例報告を受けてから、安全管理部内の安全管理グループ等では情報が共有され、社内では所定のルールに基づいた動きは行われていました。
しかし、小林製薬の対応は、行政に対して報告を必要とするかに重きが置かれ、しかも、行政に対する報告を必要とするのは各症例報告の健康被害と紅麹関連製品との間の「因果関係が明確な場合に限る」という限定解釈のもとで動いていました。
小林製薬の信頼性保証本部が2月5日に行った臨時ミーティングでも今後原因分析を行うことだけが決定され、消費者に対して注意喚起をすべきかどうかの特段の議論もされていませんでした。
問題になった紅麹関連製品はサプリメントであり、人の口に入るものです。そうだとすれば、小林製薬は、自社が製造・販売している、人の口に入る製品から、不特定多数の消費者に急性腎不全などの健康被害が生じている可能性があることの重大性や危険性を認識し、「今すぐに、消費者が紅麹関連製品を口に入れることを止めさせなければ、消費者の健康に被害を与えてしまうおそれがある」との動機に基づいて行動を起こさなければなりませんでした。これは、小林製薬が「後から訴えられてしまうかもしれない」という自己保全的な動機ではなく、「消費者の健康を守らなければならない」「自社製品によって消費者の健康を害してはならない」という消費者の健康上の安全を重視する動機です。…