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広報担当者のための企画書のつくり方入門

インバウンド(訪日外国人旅行者)獲得のためのPR企画書の書き方

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない・・・・・・」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

一筋縄ではいかないプランニング

新型コロナウイルス問題による長い停滞期を経て、訪日外国人旅行者数は徐々に回復しつつある。日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、2022年の訪日外国人旅行者数(推計)は、383万1900人と2021年に比べ約16倍となった。2023年1月単月では中国を除きコロナ前の76%まで回復している。

訪日外国人旅行者を獲得するためのPRについては、抽象的な総論(戦略論)や具体的なメディアバイイング(広告出稿)については論じられることも多いが、現実的なコミュニケーション方法のプランの仕方については、分かっているようで奥が深く一筋縄ではいかないことが実際には多い。今回は訪日外国人旅行者を対象としたPR活動の「考え方」について、大きな予算を確保できない中小規模の事業者の視点から見ていきたい。

視点1
コミュニケーションの対象者を絞る

インバウンド対策のPRはなぜ難しいのか

訪日外国人旅行者数の回復が本格化したことにより、インバウンド対策としてのPR活動が改めて注目されつつある。しかし、インバウンド対策のPR活動については「(意外と)難しい」という声をよく聞く。なぜ「難しい」のか。理由は図1のような点にあると考えている。

図1 インバウンド対策のPRが難しい理由

●「どこの国」にターゲットを絞るのか明確でない
●どこで「接点」を持つべきか場所が定まらない
●理想の顧客像(ペルソナ)を設定していない

「外国人観光客(訪日客)」という言葉だけを先走りさせてしまい、実際に「どこの国」の「どういう人たち」のことなのかコミュニケーションの対象者をフォーカスしきれていないケースも多い。

実際に「訪日客」と言っても、長期滞在が前提となる欧米や豪州など遠方からの場合と、近隣アジア諸国を中心に短期ステイの訪問客の場合とでは、観光やビジネスなど目的は同じであっても、実際の滞在の中身は異なってくる。さらには個人旅行か団体か、家族連れかどうかなどの旅行スタイルはもとより、使用言語、お金の使い方なども当然異ってくる。だが我々は訪日客をつい“十把一絡げ”に考えてしまいがちだ。

ファーストコンタクトの「タイミング」は

企画書の作成に際しては、具体的に「どのタイミング」でファーストコンタクトを行うのかを明確にしたい。基本は、(1)訪日客が自国を出国する前 (2)日本到着直後(空港、インフォメーションなど) (3)観光の最中の3つだ。どのタイミングでどういった顧客とのコンタクトポイントを設けるのか。それは広告か?パブリシティか?オウンドメディアか?それ以外(YouTuberやブロガー等のインフルエンサー)か?を明確にしたい。こうしたタイミングが明確でない企画書は現実感に乏しく焦点がぼやけてしまう。

理想の顧客を明確にイメージする

さらに、どういった外国人観光客を「理想の顧客」として設定するのかについて明確なイメージ(ペルソナ)をチームで共有したい。最近は「ペルソナマーケティング」という言葉が普及してきた。年齢、性別、地域など人口統計的なセグメントとしてグルーピングしたこれまでの「見込み客」へのアプローチに加え、「具体的かつ架空の顧客」を設定し、他部門などと事前に顧客像を共有することが一般的になっている。しかし、このペルソナ設定の際、日本人の潜在顧客を対象とする場合と比べ、外国人訪問客像が具体性に乏しくなることが多い。

インバウンドを獲得するためPRを企画することが難しいとされる理由は、総じて、PR戦略を企画する上で非常に重要な「顧客接点」が明確でなく、「どこの国」「どのタイミング」「どういう人たち」などが曖昧なまま、何となくインバウンド対策としての具体策に追われてしまうからだと感じている。

視点2
顧客接点を整理する

どの国から来る観光客をターゲットに設定するか

ここからは架空の事例を用いて「顧客接点」をどのように明確にしていくか考えていきたい。1つ目の事例は、地方都市で比較的、観光客が多く訪れる観光地周辺にある土産物店。経営者がインバウンド対策としてPRプランを作成する。顧客接点を考えるにあたって多くの選択肢はない。考えるべきは以下の4通りだ。

(1)外国人訪問客(観光客)の実態=実績値に従う

近隣の観光拠点への訪問客、または自店の既存客の実績値(実数値)をベースとして広報活動の優先順位を付ける。仮に過去の実績が多い地域順に 1位韓国、2位アメリカ、3位香港、4位台湾であれば、シンプルにこの優先順でPR施策を行う。

(2)これから伸びる(であろう)国にフォーカスする

今後の予測に基づきターゲット設定を行う。コロナ禍により観光客が激減したが今後は回復していく前提で、今はまだ回復していない中国人観光客に焦点を絞る。タイミングを推しはかり、状況が改善されるのを見計らってリソース(ヒト・カネ・モノ)を投入する。

(3)「他店がターゲットとしない国」を優先ターゲットに

近隣の競合店などを意識し先手を打って将来的な需要に備える(例:アフリカ諸国やムスリム旅行者など)。

(4)個人観光客以外に焦点を絞る

団体客、研修旅行、ビジネスツアー等での来日が多い国をターゲットとする。

優先すべき顧客接点は

土産物店が人気観光スポットの近くにある前提で考えると、(1)の「既存の国別割合」を重視するPR戦略の場合、優先すべき顧客接点は、訪日客が日本に到着後の「観光の途中」が現実的だ。確かに旅行者がよく用いるガイドブックなどで自分の土産物店が提供する独自サービスが注目され、訪日の際に訪れたい観光スポットの候補に挙がったりすることも考えられる。

しかし、コンタクトポイントとしてベストかと問われれば、答えは「早すぎる」だ。海外のメディアが日本の特定観光スポットの土産物店について扱うのは、よほど独自の商品・サービスを提供する場合に限られるからだ。一部の例外を除き特定の「土産物店」への訪問を“目当て”に日本への訪問や観光スポットを決意する可能性は低い。

従って、インバウンドの潜在的顧客が ①日本を訪問しようと意思を固める ②(土産物店の近隣の)観光地を訪問しようと決める ③来日して何らかの交通手段で観光スポットにまで到着する ④到着した地点から観光スポットまで移動する。この①~④ステップのいずれかで、土産物店のプレゼンス(存在感)を示すことが正攻法となる。当たり前だと思われるかもしれないが、PR戦略を立案する際には「当たり前」で構わないので「最も確度が高い」可能性を優先することが基本となる。

具体的には「日本到着時の空港内➡最寄り駅、あるいは近隣ホテルまでの動線」または「空港からのシャトルバス等を利用して観光地までたどり着くまでの動線上」だ。訪問客の動線をまずは徹底的に押さえたい。できることであれば、「訪日客が自国を出国する前」にファーストコンタクトを行いたいと考えることもあるだろう。

だが現実問題として、この土産物店で考えた場合、観光スポットを訪れる観光客の上位に入るような国々(韓国、アメリカ、香港、台湾)におけるメディアリレーション(パブリシティ活動)を土産物店が個店でのPR活動として行うことは言語の問題も含めハードルが高い。

従って、どのような規模の事業者にもオススメできるコンタクトポイントは、❶ウェブサイト/SNSアカウントの多言語化 ❷効果的なハッシュタグの活用 ❸分かりやすいオンラインマップでの表示(MEO対策)❹フラグシップ商品の心に刺さる説明などが考えられる。

MEO対策で接点をつくる

なおMEO対策は、訪日客を引き寄せたい実店舗にとって欠かせないコミュニケーション施策の1つだ。SEO対策が、検索エンジンを最適化し、上位表示されることを狙うのに対し、MEOは地図エンジンを最適化し検索結果の上位に表示されることを目指すものだ。例えば「地域+業種」で検索ワードを入力した際に「ローカル検索結果」として画面上部に検索結果が表れることを目指す(図2)。

図2 MEO対策の例
「観光スポット」+「土産物」と検索した際に、上位表示されれば、接点を広げることができる。訪日客向けにも対策したい。

MEOを行う上では、Googleビジネスプロフィールへの登録が必須となる。Googleは関連性が高く「有益」とされる情報を上位に表示させる仕組みになっているため、潜在顧客が検索しやすいキーワードを盛り込み、高評価を得られるように店の満足度を高め、口コミやレビューの数を増やすなど地道な努力が必要となる。情報の更新も忘れずに行いたい。

どこで接点を持つべきか?(国外・空港・国内)

2つ目の架空事例は、首都圏ターミナル駅に隣接するビジネスホテル。アクセスの便利さから稼働率は常に比較的高い。インバウンド対策として滞在期間が長く、客室平均単価も高いビジネス客などを誘致するためのPRプランを作成したい。この例のように、すでに稼働率がある程度高いホテルが、客室単価の高い顧客層に積極的に予約を入れてほしいなど、「インバウンドであれば誰でも良いとも限らない」ケースにおいては、最初に具体的なターゲットを絞り込むことから企画書作成を始めたい。

(1)どこの国からの...

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