「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない⋯⋯」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
ブランド力の重要性を社内へ浸透
「日頃は決して頭の固い上司ではないのですが…」と前置きがあった上で、広報担当者からこんなお悩みを聞くことがある。「『企業ブランド』という言葉を聞くと、『うちには関係ない』『営業力があれば十分』『自社の強みや魅力は分かる人には分かる』などと言って真剣に考えてくれないのです…」。こうした傾向はBtoC企業よりBtoB企業(顧客の絶対数が少ない企業)に多い。
また、競争の激しい市場よりもいわゆる“半官半民”と呼ばれるような「規制産業」と呼ばれるような業界にも、自社の「ブランド力」について関心が低いケースがあった。もっとも、広報部門の方たちの多くは「それではいけない」と思っているからこそ、どうしたら社内のブランド意識が高まるのかを日々悩みながらチャレンジを続けている。今回はこうしたお悩みに役立つような「ブランド力の強化」を社内で説得するための企画書について考えていきたい。
視点1
なぜ「ブランド施策」から目を背けるのか
BtoB企業がブランド価値向上に積極的になれない理由
自社ブランドの向上を目指す施策が社内で承認されない、そう話す広報担当者に、具体的になぜ社内で理解されないのかと尋ねたところ、おおむね次の6つに分類された。ブランド施策がどうにも受け入れられにくいと感じたならば、まず自分たちが6つの内どのタイプに当てはまるのかを客観的に分析した上で、適切な対策を講じることが大切だ。
タイプ①「ブランド価値」の重要性が分からない
「ブランド価値」そのものの重要性について管理職が分かっていないケースは、すでに企業名などの認知度が高い大企業に多い。また歴史の長い老舗企業にもよく見られる。上司たちが入社した頃には、すでに自社の知名度は高く大手のクライアントをいくつも抱えていた、あるいは、高度成長期から近年にかけて長年にわたって取引が続く固定客がいるからだ。企業ブランドについて、議論しなくとも十分ビジネスが成立してきた“恵まれた企業”ともいえる。こうした企業内では「ブランド力=認知度」と混同していることがあった。
タイプ② 重要性は分かっても“自社”に必要ない
財閥系など著名企業の子会社や関連企業などに多い。金融、医療、不動産など参入障壁の高い規制産業や、公益社団法人などにも多く見受けられる。「ブランド価値の重要性は分かるが自社には必要ない」という考えは、「自分たちの業態は特殊だ」という自己認識が前提にある。
タイプ③ 必要だが他に優先すべきことがある
ブランド価値の向上よりも「他に優先すべきことがある」というのが、私がこれまで経験してきた最も多いケースだ。このパターンの説得が一番手強い。この時の「他に優先すべきこと」にはそれなりの優先すべき理由があるからだ。
例えば、起業したばかりのベンチャー企業の場合、「企業ブランド構築と強化は確かに必要だが、今はまだ早い(それどころではない)」といった話になりやすい。こういった場合は、起業家自身が本当はブランド価値の向上の大切さを十分に分かっているが「今はどうにもならない」と考える場合もある。その一方で、タイプ①と同じく、自社のビジネス上、今後ブランド構築が重要テーマになることを予見しきれていない場合もある。
また、ブランド力を強化するよりも営業力の強化や研究開発などへの人的リソース充填に尽力したいという声も根強い。特にインフラ業界や重機械メーカー、その他、全国に多くの営業所や代理店、直営販売店などを持つBtoB企業にこうした声は多い。これは「現場」から上がってくる声を重視する傾向からだろう。
タイプ④ ブランド価値の向上の「効果」が分からない
費用対効果に厳格な論理性を求める企業に多い。特に財務担当役員などの発言権が強い場合によくある。「販促」「採用」などは目的が誰からも分かりやすく、結果が明確に数値化されやすいが、「ブランド価値の向上」のための広報活動は、「効果がよく分からない」と言われることが多い。このため企画書の作成に際して特に「目的」を明確にするなどの注意が必要となる。
タイプ⑤ ブランド施策に浮ついた印象がある
「ブランド」という言葉から「軽い(チャラチャラしている)」という印象を想起するためネガティブな印象を持つ経営者も実際には多い。こういった企業は良い意味でとても「マジメ」な社風で、間接費(マージンなど)を極力避け、「ブランド」「広告出稿」といった言葉を嫌う傾向がある。また、かつて広告会社やデザイン事務所などとの間に何らかのトラブルがあり、自分たちが慣れないブランド広報において「ぼったくりの被害に遭った」などとマイナスの印象を持っていることもあった。
こうした企業はデザインや制作が「得意」な社員が見様見真似でウェブサイトやデザイン制作を行っていることもよくある。このため機能面やデザイン面においては洗練されておらず、社外コミュニケーションの意義や価値を経営層があまり信じていないことが多い。こうした場合には、企業規模や経営目標に応じて「かけるべき費用(リソース)は投入するべき」だということに理解を得るまでにとても時間がかかるのが難点だ。
タイプ⑥「ブランド価値」向上のためにはコストがかかる
「ブランド価値」の向上にはコストが非常に多くかかると思い込んでいる。かつて広告会社などに施策の提案を求めたが、その時の提案がとても依頼できる金額感ではなかったというケースもある。「あえて高い金額を払ってまでやる必要が本当にあるのか?」という点について、どのように説得するかがポイントとなる。
タイプ④は「(投資としての)費用対効果」について納得を得られればよいが、タイプ⑥の企業は、施策の内容よりも企画書自体の「総額」が重要となる。自社で行えない施策について外部リソースを活用して行う場合は、当然それなりの費用がかかるものだが、日頃から「アウトソースの活用=安いから」という視点に慣れている企業の場合は、この「金額感」が折り合わないことが多い。このため社内で提案を上げる際にもPaid mediaよりも、Owned mediaとEarned mediaを中心に展開することで「総額」を抑えるようにアドバイスすることが多い。
視点2
なぜ「企業ブランド」の向上が必要なのか
ブランド施策にはどのような効果があるか
これまで企業ブランドの向上にあまり熱心でなかった企業において、企画書を作成する際に注意したいのは、タイプ①~⑥のいずれの場合にも、そもそも「なぜ企業ブランドの向上が必要なのか?」という素朴な質問に答えるため「目的の整理」を丁寧に行わなくてはならないことだ。
この「目的」の重要性を説得し、認めてもらう際に必ずぶち当たるのが「ブランド施策は(直接的に)売上に貢献するか?」という素朴な問いだ。しかし、結論として「ブランド価値=売上」とまで言い切れるかは微妙だと私は考える。むしろ答えは「NO!」だといってもよい。単純に結びつけてしまうのは安易過ぎる。それは、ブランド価値向上による効果や影響は単に「売上」にのみ効果があるわけではないからだ。
「ブランド価値」の向上のための施策は、様々な企業活動に影響を及ぼすため、「売上」という単一の数値で説明できるとは限らない。しかし「ブランド価値向上のための施策によって中長期的に売上にも好影響を与えるか?」と聞かれれば答えは間違いなく「YES!」だ。
いずれにしろ、BtoB企業におけるブランド施策の「効果」がどういう形で表れるかについては実に複雑で、単純に「売上」の向上だけで効果を測定することはできない。企業のブランド価値向上の間接的な効果としては図1のようなものが考えられる。
● 企業名の認知拡大
● 新規の「見込み客」の獲得
● 商談の「成約率」の向上
● マーケティング投資回収率の向上
● LTV(顧客生涯価値)の向上
● 解約率の低下(契約継続率の向上)
● 求人への応募者数の増加
● 離職率の低下
● 株価の安定
● 販売代理店の維持費の低下
これまでにも「効果の測定が短期的に難しいのであればブランドのための費用は出さない」とかたくなな経営者も多くいた。一方で、設備投資や人材採用などでは、どんな経営者も中長期的な視点で事業戦略の立案を行っている。従って、企画書を作成する上では「中長期的には売上に貢献する」という前提に立って数値目標をしっかり算出することが社内で企画書を通す上で重要になる。
企業ブランド向上のための施策を作成するにあたり、その「目的」をどう設定するのか。企画書の作成上の「実施目的」について、さらに考えていきたい。
先述した図1は、ブランド施策に「期待される効果」であるのに対して、図2では、企画書の作成上有効な、「施策の目的」をピックアップした。
● 競合との差別化とイメージチェンジ(ポジショニングシフト)
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