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メディア研究室訪問

メディアの活用を通して地域や文化、組織の課題を解決する 兵庫県立大学 井関崇博研究室

兵庫県立大学 環境人間学部 社会デザイン系 井関崇博研究室

メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は兵庫県立大学の井関崇博研究室です。

井関崇博研究室のメンバー

DATA
設立 2010年
学生数(2022年度) 3年生5人、4年生5人、修士2年1人
OG/OBの主な就職先 神戸新聞事業社、PHP研究所、白鶴酒造、星野リゾート、神姫バスツアーズ、三菱地所プロパティマネジメント、和田興産、両備システムズ、中国銀行、兵庫県庁 など

兵庫県立大学環境人間学部では、「すべての人に豊かな暮らしと環境を」の理念で、文系から理系まで広範な専門分野を持つ教員が連携し、暮らしと環境を構想・実現しようとしている。その中で、社会デザイン系では、経済学、社会学など現象解明志向の学問と、環境政策や都市計画といった応用志向の学問の両方を学び、問題構造を把握した上で、課題解決を推進していける人材の育成を目指すという。

研究と実践を学びバランスある専門性を

メディア・コミュニケーションとは「何らかの目的のために、メディアを使って多くの人にコンテンツを届け、働きかけていく営み」と送り手の目線から定義する井関崇博教授。井関研究室では、地域、文化、組織、あるいは環境といった課題領域において、どのようなメディア・コミュニケーションが有効かを研究している。

環境人間学部の学生は、3年次から2年間、研究室に所属する。井関研究室で取り組むのは、3年次に行う実践プロジェクトと、4年次に個々人で行う卒業研究の2つだ。実践プロジェクトでは、5人がチームとなり、半年ほどかけてメディア・コミュニケーションの企画を練り、コンテンツを制作して公開、または運営する。兵庫県立大学の広報誌の一部を企画したり、地域イベントを開催したりすることもあるという。

2022年度は、同大生を対象とし、SDGsにつながる行動を促すキャンペーンを展開した。4年次の卒業研究では、メディア・コミュニケーションを分析する側に回る。研究と実践、両方への取り組みを通し、バランスのとれたメディア・コミュニケーションの専門性を身につける狙いだ。

巨大鳥瞰図を歩くイベントで姫路をPR

井関教授が特に印象深かったとするプロジェクトは、「姫路城下巨大鳥瞰絵図展」の開催だ。地域の有識者団体が令和の姫路の姿を後生に残そうと、2021年に制作した「姫路城下鳥瞰絵図」。これを縦7.5m横6.2mに拡大印刷し、その上を歩いてもらう体験イベントを企画・実施したのが研究室生だった。

「少予算でいかに効果的なメディア・コミュニケーションを展開するかに挑んだ事例です。シンプルで実現可能な手法が非常に有効でした。地域に詳しく一定の予算はあるが、メディア技術や人手が足りない『地域』と、地域には詳しくないが、アイデアと人員がいる『研究室』が足りない部分を補い合ったよいコラボだったと思います」。

井関研究室には、探究され続けている研究テーマがある。「コンテンツ・ファンによるメディア表現行為」だ。ディズニープリンセスが日本人のファンによってどうアレンジされ、表現されているかの分析や、「夜に駆ける」(YOASOBI)の楽曲を個人が編集・合成・再構成した、いわゆるMADムービーにどのようなパターンがあるかを調査した研究もある。

現在は、シルバニアファミリーのキャラクターを使ったインスタ投稿にどのような表現・クリエイティビティがみられるかを分析し、他の領域に応用可能な知見を抽出しようと試みる4年生がいるそうだ。「このようないわゆる二次創作作品はオリジナルコンテンツの著作権を侵害しかねないリスクもありますが、コンテンツの世界観を深め、広められる可能性を秘めており、広告・広報の観点や文化研究としても興味深く感じています」(井関氏)。

本学部で幅広く社会課題に触れてからメディアを学ぶ研究室生だからこそ、メディア・コミュニケーションをどう活用すべきか適切に考えられるはずと井関教授。「メディアに詳しい人材が多いとは言えない企業や行政の中で、広報・宣伝担当として広告会社やPR会社、制作会社などと協力しながらメディア・コミュニケーションを進める人材となって活躍してほしいですね。それが当学部でメディアを学んだ学生ならではのキャリアではないかと思います」。

実際の「姫路城下鳥瞰絵図」を初めて見た時の研究室生の様子。目を輝かせながら歓声をあげていた。

「姫路城下巨大鳥瞰絵図展」を終えた後に巨大絵図の上で撮った記念写真。

異なる分野で課題解決を経験し
メディア・コミュニケーションの必要性を実感

大学院では、地域や環境政策の分野における対話や合意形成について研究していた井関教授。2009年に兵庫県に移り、地域の課題に向き合う中で、メディアを活用できる領域の膨大さと、メディア・コミュニケーションを推進する必要性を実感し、現在のテーマにたどり着いたという。

所属大学の広報に関与する中で、オウンドメディアの運営や動画制作も進めており、その一環で国内大学におけるオウンドメディアやYouTubeチャンネルの運用実態を調査。また、リアルで行っていた学部の学生プレゼンイベントを、プレゼン動画収録後にネット経由で学内共有するスタイルに変更。「コロナがきっかけでしたが、この形はさまざまな観点で効果的なことが分かったんです。今後は、1つのモデルとして提案しようと考えています」。

井関崇博(いせき・たかひろ)教授
1974年生まれ。早稲田大学社会科学部卒、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。東京工業大学大学院助手・助教を経て、2009年に兵庫県立大学環境人間学部に着任。研究・教育のかたわら、2015年頃から学部の広報業務に関わるようになり、2020年度からは学長特別補佐として全学広報に関与している。

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