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広報担当者のための企画書のつくり方入門

伝統工芸品をPRするための企画書の書き方

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

インバウンド回復に向けたPR企画

全国には240品目もの伝統的工芸品があると言われている(*)。私は大学で教鞭を執るようになってから、産学連携での演習講義の一環で伝統工芸品のPRに携わる機会を得るようになった。人形玩具、磁器、織物など製造工程を見学する中で垣間見る日本の伝統技術の水準の高さには目を見張るものがある。

海外の愛好家からの評価も高く、アフターコロナのインバウンド需要として起爆剤となることも期待されている。一方、伝統工芸品のPR戦略を考える上での課題は多い。生産や流通が地域内に留まっていること、製造の主要部分を “手づくり” で行っていることなどから、スケールメリットのあるPR活動は行いにくい。今回はこうした地域の伝統工芸品のPR企画書の書き方について考えていきたい。

*2022年11月時点

視点1
PR視点での「伝統工芸品」の強みと弱み

テレビ番組が好む切り口が多い

経済産業大臣が指定する「伝統的工芸品」の要件として法律上、次のような規定がある。①主として日常生活で使われるもの ②製造過程の主要部分が手づくり ③伝統的技術または技法によって製造 ④伝統的に使用されてきた原材料 ⑤一定の地域で産地を形成(伝統的工芸品産業の振興に関する法律 第2条より)。

ここで言う伝統的とは、原則として技術または技法が100年以上の歴史を有していること。今日までその技術が継続していること。受け継がれてきた間に改善発展があっても構わないが、製品の特質を変えるまでの根本的変化に至らないことが要件となる。

一般的にメディアが生活者に情報を発信する際に好む「切り口」として図1の考え方があるが、伝統工芸品にはメディア(特にテレビ)が好む「切り口」が多く含まれている。

図1 メディアが好む「切り口」

社会性(ストーリー性)がある企画

● 社会課題を解決するか
● ちょっと役立つ(お得な/不便解消)情報があるか
● 対象者の数が多いか
● “1位” のもの、“初めて” のものはあるか
● 対立するもの(比較)はあるか
● 意外性はあるか
● シンプルな内容か

映像映えする企画

● 映像でしか伝わらないネタか
● 大きいもの、動くもの、色鮮やかなものがあるか
●レポーターがその場でトライ(試食など)できるものか
● 子ども、学生、お年寄り、動物は登場するか
● 異色のコラボがあるか
● 時間の変化、成長があるか
●「音」のあるものか

旬な情報のある企画

● “今日” の放送に適した話題か
●「季節感」のある話題か
●「今の時代」を表す話題か

例えば、伝統工芸品は現在でも日常生活の中で利用されている。このことは、生活者に今(旬)の情報を発信するというメディアの特性上、大きくプラスに働く。過去に使われていたものよりも「現在使われているもの」をメディアは報道したいと考えるからだ。

伝統工芸品が「手づくり」である点も、「製造工程の可視化」という意味でメディアは好む傾向がある。どこかの工場でつくられたものではなく「職人が丹精込めてつくっているもの」(「絵」になるもの/こと)の方が取材・報道の対象になりやすいからだ。

図2 PR視点での伝統工芸品の「強み」

● 実用品である
➡︎日常生活で全く利用されないものはPRしにくい

● 手づくりである
➡︎製造工程が可視化されやすい、取材しやすい

● 伝統的かつ高度な伝統的技術、工法である
➡︎「次世代へ次ぐべき」という暗黙の共通理解

● 特定地域との密接な関係
➡︎地域振興、地域活性化などの文脈に乗せやすい

PR視点での「弱み」は何か?

「日常生活で使われる」「手づくり」「伝統的技術・技法」といった要素は、伝統工芸品の「強み」となる一方で、全国のあらゆる伝統工芸品にとって共通の「強み」でもある。全国メディアに向けた広報活動を行おうとした場合は、他の多くの伝統工芸品との差別化がしにくい。

またマスメディアの露出では「全国」「いつでも」「品切れがない」が求められるが、伝統工芸品は大量生産に向かない。加えて価格のみを比較すると、より安価な代替物が存在するため、価格訴求しにくく、若年層への訴求が難しい。新しい技術を取り入れにくいため、新商品・新技術・新カテゴリーなどを話題にしにくいといった広報活動上の弱みがある。

こうした環境にある中で、どういった考え方で比較優位のポジションを獲得し企画書の作成に臨めばよいのか。まずはPR視点での「弱み」を克服する。そして、本来の「強み」を「追い風」に乗せる。この二段階で考えると、基本的な戦略立案がしやすくなることがある。SWOT分析を応用して考えてみたい。

視点2
弱点を克服した上で「強み」を拡大

企画書作成に用いたい「SWOT分析」の基本

SWOT分析とは、外部環境、内部環境を分析する手法で、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)の4要素で整理する。

図3 SWOT分析

一般的には外部環境の分析から始めることが多い。「機会」と「脅威」の順番で市場と社会情勢などを分析する(例:市場規模や成長性、競合、景気や経済状況、政治、法律、為替、環境問題)。

次に、内部環境の「強み」「弱み」を分析。感覚ではなく数値やデータを用いる。「強み」とは競合との差別優位点などについて顧客の視点で考えることだ。現在は強みとまでは言えなくても、将来的に強みになる可能性のある場合はここに含めたい。「弱み」については「競合にあるが自分たちにない点」「苦労していること」などについて整理する。

外部環境である「脅威」は自力では解決できないのに対して「弱み」は自分たちの努力次第で克服できる課題を示す(例:認知度、好意度、ブランド力、価格、技術力、品質、デザイン力、販売力)。そして、4つの内容を掛け合わせることで、具体的な戦略案へと落とし込んでいく。

①強み × 機会

「強み」を活用しつつ「機会」を活かす。伝統工芸品の場合は、各地域の伝統工芸品で「強み」が共通することも多いので、特定の「地域内」でのPRを考える際には、「伝統工芸品でないもの」と比べて「強み」を活かせることも多い。一方、全国的なPRを行う際には、他の地域の伝統工芸品との決定的な差別化のポイントを探すことが重要となる。

②強み × 脅威

「強み」を活かすことで、外部環境における脅威から守ることを考える。「後継者不足」などの業界全体の脅威も、新商品、新技術、新しい販売網などの「強み」と掛け合わせることで新たなチャンスにもなり得る。例えば、「地域密着(強み)」×「後継者不足(脅威)」なら、地域の学校教育へ協力(探究型学習)することで、メディア取材などPR活動へつなげることが考えられる。

③弱み × 機会

「弱み」の克服を行うと同時に、 “逆転の発想” によって外部環境の「機会」を利用する手立てを考える。例えば、本来は「弱み」にあたる「一等地に店舗がない」点を、通販サイトが一般的になってきた「機会」を利用し、自宅から注文できるようにする中で、「全国どこからでも注文でき、その日に発送」という訴求ポイントに進化させていく。

④弱み × 脅威

「弱み」を把握した上で、「脅威」から身を守る。場合によっては「積極的なPRを行わない」などの撤退リスクも検討。主に危機管理広報の視点に立つ。

逆転の発想を取り入れる

PR視点から伝統工芸品ならではの「弱み」を克服し、外部環境の「機会」を利用することで「強み」を拡大する企画を考える際には、“逆転の発想”を用いるなどクリエイティブジャンプ(アイデア発想)で臨まなくてはならない時がある。ここで「織物」の新規需要を伸ばすためのPR企画書の作成を事例として話を進めたい。

まず、外部環境の「機会」に注目すると、円安やアフターコロナによる来日規制緩和による「外国人訪問客の増加」が想定される。これを「機会」として捉え、どうやってこの機会を活かせるのか考えていく。

一方「強み」にも着目したいが、「高い技術力」「織物自体の魅力」などは、他の伝統工芸品でも共通するので広報視点での差別化はなかなか難しい。そこで、あえて「弱み」となるような「海外での低い認知度」に着目する。この「低い認知度」を克服する過程で「新規需要の獲得」につなげられないかと “逆転の発想” (クリエイティブジャンプ)を検討する。

図4 「織物」(伝統工芸品)のインバウンド消費を伸ばすPR

目的
インバウンド需要の獲得

機会
外国人訪問者数の増加。観光消費額が毎年増加

脅威
地域の伝統工芸品産業は出荷額や従事者数共に年々減少傾向

強み
高い技術力

弱み
国内認知度は高いが、海外では知られていない

⬇︎

「弱み」を克服しつつ外国人から「土産物」として好まれる商品をPR

想定されるPR活動

① 外国人観光客のニーズを把握(定性調査を実施)
② 外国人観光客の「土産物」に着目 ➡︎ 化粧品の購入が多い(気づき)
③ 化粧品を入れるポーチとして風呂敷を活用 ➡︎ PRテーマとして置く
④ 「幾何学模様」「花」「風景」「動物」などの模様の中で、どれが最も好まれるかをアンケート(定量調査を実施)...

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