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PR思考で読み解く企業ブランディングの未来

企業への多様化する期待 イシュー起点のPRが鍵

Supported by 電通PRコンサルティング

企業の広報戦略・経営戦略をコンサルティングするプロが企業ブランディングのこれからをひも解きます。

今回のポイント
①個々のステークホルダーの興味・期待は異なる
②メッセージ・ストーリーづくりへのニーズが高まる
③イシュー起点で、多様な利害関係に向き合うPRへ

近年、PR領域においても、「マルチステークホルダー」というキーワードに注目が集まるようになった。

この流れを顕著に示すデータがある。企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内)で2014年より2年おきに実施している「企業の広報活動に関する調査」では、企業の広報部門の責任者が重視している広報ターゲットについて聴取しているが、2014年から2022年の8 年間で大きな変化が見られた。

* https://www.dentsuprc.co.jp/releasestopics/news_releases/20221027.html

具体的には、「メディア」を重視する率(69.1%⇒72.0%:2014年と2022年の比較、以下同じ)はほぼ横ばいであった一方、「従業員とその家族」(53.7%⇒76.4%)や「就活生」(40.1%⇒71.1%)の値は大きく増加し、メディアの重視率を超える、あるいは、それに迫る結果となった。

PR関係者にとってこのような変化は、「インターナル広報」「採用PR」というテーマを見聞きする中で実感されている方も多いと思う。また、従来のメディアリレーション業務とは異なるアプローチが求められるテーマでもあり、多様なステークホルダーへの対応に悩まれている方も少なくないのではないだろうか。

多様な期待に向き合う難しさ

このようなマルチステークホルダー化に、PRとしてどのような戦略で向き合っていけばよいのか。

PRにおけるメディアリレーションでは、メディアの興味・期待を捉えて情報発信を行うが、マルチステークホルダーに対するPR戦略では、まず各ステークホルダーの期待を把握することが重要だ。

ここでは一例として、企業広報戦略研究所が2022年に実施した生活者1万人を対象とした「魅力度ブランディング調査」のデータから、その一端を見てみたい(図1)。

図1 回答者属性別「企業に期待する魅力」

企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内)「第7回 魅力度ブランディング調査」
調査期間:2022年7月22日~7月29日
調査対象:全国の20~69歳の男女
調査方法:インターネット調査

例えば投資家(本データでは、「株式保有者」)には、企業の「イノベーションにこだわる」活動がより強く伝わっていることが分かった。また、就活生や比較的若い世代の転職者が多く含まれる20代の生活者には、「実力主義の職場風土」がより強く伝わっている。このように、複数のステークホルダーに向き合うということは、すなわち、多様な、複数の興味・期待に応える情報発信を設計することであるといえる。

ここで課題となるのが、ステークホルダー間の興味・期待の受け取り方の違いだ。上記で例えると、「実力主義」であるという発信は、20代にはポジティブに捉えられる可能性があるが、他の世代には必ずしもそうは伝わらないことも想定される。

「PRストーリー」への注目

マルチステークホルダーに向き合う今の広報部門は、どのような活動に力を入れているのだろうか。ここでは、本稿の冒頭で触れた「企業の広報活動に関する調査」の2022年実施分のデータを参照する。

同調査において、「今後強化したい項目」のトップに上がったのが、「クリエイティブ力」であった。さらに細かく見てみると、ステークホルダー別のコンテンツ設計への注力に加えて「PRメッセージ・ストーリーの策定」の選択率が高いことが分かった。

この背景として想定されるのは、オウンドメディアの活用など、自社が直接、外部に向けた情報発信を行う機会の増加だ。とりわけ近年、ホームページだけでなく、統合報告書やESG説明会など、広報部門が関わり得る情報発信の機会が増えている。それに応じ、メッセージやストーリーづくりに携わることが今まで以上に求められているのである。

ここで一つの課題となるのが、オウンドメディアは、様々なステークホルダーがアクセスするという点である。そうした情報発信に不可欠な、多様なステークホルダーに向き合うためのPRメッセージ・ストーリーは、どのように考えていけばよいのだろうか。

イシュー起点で期待に応える

広い利害関係を包含する「イシュー」に着目し、コミュニケーションを設計していくのも戦略の一つである。

ただし、イシューは非常に広い概念であるため、自社のビジネスに関係するイシューを絞り込む必要がある。また、「自社ならでは」のイシューへのアプローチを描けるか、といった点も重要になる。

例えば今、世の中の注目を浴びているイシューの一つ、「賃上げ」。同テーマについては、就活生や従業員にはポジティブに伝わりやすいが、ミクロな視点ではコスト増であるため、メッセージを誤ると投資家には嫌気されてしまうリスクもある。そうした中、例えば情報産業を担う企業の一部は、海外IT大手が人員削減を計画する中での「積極的なデジタル人材の獲得」を掲げ、競争力向上のための報酬体系の変更を表明している。求職者や株主など、複数のステークホルダーに向けたポジティブな発信の一例といえよう。

イシューを捉えてPRメッセージ・ストーリーを練ることで、多様なステークホルダーの興味・関心に応える広報活動が、今後ますます求められていくと考えられる。

詳細は当研究所サイトにて
https://www.dentsuprc.co.jp/csi/csi-topics/20230501.html



企業広報戦略研究所
電通PRコンサルティング 企画開発部 部長
上席研究員
坂本陽亮(さかもと・ようすけ)

広告会社の経営企画部門、コンサルティング会社を経て、2014年に電通PRコンサルティング入社。PR戦略の立案スキーム開発、PR起点のコーポレート・ブランディングモデル開発などを担当。近年は、「価値づくり」広報のテーマにも取り組む。

企業広報戦略研究所(2013年設立)は、経営や広報の専門家と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析などを行う電通PRコンサルティング内の研究組織。https://www.dentsuprc.co.jp/csi/

CASE

男性育休の取得推進を起点に、広がり続けるステークホルダーとのつながり

男性育休取得が当たり前の社会を目指す「男性育休プロジェクト」は、積水ハウスが1カ月以上の男性育休取得率100%を達成した2019年にスタートし、5年目になります。9月19日を「育休を考える日」と記念日制定し、全国の小学生以下の子を持つ男女の育児・家事の実態を調査し「男性育休白書」として発表するなどの取り組みをしています。昨年は、業種・業態の垣根を超えてご賛同いただいた81もの企業・団体の皆様と一緒に発信するなど、活動の輪は広がり続けています。

長く続く理由の一つには、当社の根本哲学「人間愛」があり、従業員と家族の幸せを大切にする取り組みとして、多くの従業員が「これはやるべき」と納得できるテーマに出会えた、という点が大きいと感じます。徐々に男性の育休取得が浸透することで、社内からは「チームワーク向上につながった」など様々な声があがっています。

育休を取得したOB社員が東京工業大学で経験を語り、学生の皆さんと働き方について考えたり、男性育休を訴求する動画がSNSで広く注目されたりと、嬉しい反響も頂きました。今後も様々な立場の方々と共に、男性育休について考え、一歩を踏み出すきっかけをつくる活動にチャレンジしたいと思います。

積水ハウス
コミュニケーションデザイン部
CXデザイン室
酒井 恵美子 氏

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