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データで読み解く企業ブランディングの未来

多様な受け手に届く「マルチコンテクスト」

Supported by 電通PRコンサルティング

企業の広報戦略・経営戦略をコンサルティングするプロが企業ブランディングのこれからをひも解きます。

今回のポイント
①周辺情報もニュースに
②メディアの“守備範囲”から逆算
③リリースの見出しを書き分ける

たくさんの情報が溢れ、メディアも多様化/細分化した現在では、生活者は自分が欲しい情報を効率良く見つけ出すために、属性や関心に合った「メディア」を狙い撃ちし、そこから情報を得ることが多くなっています。このため、より多くの生活者に情報を伝えるには、一つの商材や施策に対し、多面的な切り口や文脈=「マルチコンテクスト」を持たせることが重要となっています。

新商品の情報を出す際などは、つい商品の“スペック”だけに着目した発信をしがちです。しかし、開発の背景、調査、パッケージのデザイン、市場トレンド、モーメント、マーケティング…といった「周辺情報」も、それ自体に情報価値があると判断するメディアに届けば、それぞれが一つのニュースに昇華し、より多くの生活者に伝わる可能性があるのです。

守備範囲から逆算

どんな切り口なら、どんなメディアが振り向いてくれるのかを考えるときは、各メディアの「守備範囲(取材・報道すべき対象)」を理解し、整理しておくと便利です。

テレビや新聞などの総合的なメディアでは、同じ番組や紙面の中でジャンルの異なる多種多様な情報を扱っています。社内で政治部、経済部、社会部、科学部、文化部、運動部、国際部などに分けられ、たとえば「新型コロナの感染拡大」という同じテーマでも、取り上げるニュースの切り口が変わってきます。(図1

図1 マルチコンテクストの展開例

専門メディアやウェブメディアもこのカテゴリーに分類して整理しておくと、企業活動としてどんな情報がないとそもそもニュースにならないか、プレスリリースの送付先をどの部署宛てにするかといった、情報設計と発信に役立ちます。

マルチコンテクスト

こうした守備範囲を理解した上で、実際に「マルチコンテクスト」を考えてみましょう。

例えば、生理中にも安心してはける「吸水ショーツ」を販売している架空の企業があるとします。ショーツの販売に合わせて、生理痛に悩む女性たちを応援できるような取り組みを考えます。

ショーツの販売と応援メッセージなどを発信するだけでは、商品ニュース以外ではなかなか取り上げられません。そこで、取り組みの背景として、「生理痛」に関してどのくらいの女性がどんな悩みを抱えているのかを整理します。開発にあたって実施した調査を活用してもいいですし、女性が抱える課題と向き合ってきた企業のノウハウを生かし、改めて実態調査を行うこともできます。ソーシャルメディアでの生活者の発話をリサーチし、インサイトを見つけるのも効果的です。

調査の結果、「生理痛を我慢しているという人は、〇%」「周囲に相談できない人は□%」「そのうち△%が休職を余儀なくされた」といったファクト(事実)が判明してくれば、社会ニュースの種になります。「これだけの人が実際に苦しんでいる」というファクトが示されることで、メディアが「社会問題」として提起する可能性があるからです。特に、女性にまつわるニュースを扱うメディアやソーシャルメディアアカウントは関心が高そうです。

さらに、なかなか相談しづらいという結果を踏まえ、まずは社内から声を上げやすくしようと、社内向けの講習会や制度改革を進めることも重要です。企業が発信するメッセージにより説得力が出ますし、企業の取り組みとして取材されたり、他社が賛同してくれたりする可能性もあります。著名人に経験を語ってもらうことでも、生活者が声を上げやすくなるほか、経験の告白自体がエンタメメディアでニュースになることもあります。

さらには、気軽に本音を話し合うきっかけを生むツールを作ることで、生活者の役に立てるかもしれません。

こうして文脈が増え、多くの人に届き、社会問題化していくと、世の中の意識に変化が生じたり、制度が改善されたり、課題解決に大きく寄与するきっかけにもなり得ます。

顔つきを変える

さまざまな切り口を一つのプレスリリースに盛り込み、対象となる各メディアに一括で発信するのも一つの手です。一方で、「より確実に届ける」ということを意識するなら、メディアに合わせてプレスリリースの“顔つき”を変える、つまり、見出しや内容をメディアとその文脈に合わせて書き分けて発信することはとても効果的です。

手間ではありますが、相手に合わせて伝え方を変えていくことは、伝えたい相手に寄り添うことであり、より良い関係性を築くきっかけにもなるはずです。

関連記事はこちらのサイトでも展開中。
https://note.prx-studio-q.com/n/nd9fb49bf0463
「PRX Studio Q」
電通PRコンサルタントのプランニングチームによる公式note



電通PRコンサルティング
統合コミュニケーション局コミュニケーションデザイン部
コンサルタント
平林未彩(ひらばやし・みさ)

通信社記者を経て、電通PRコンサルティング入社。前職で社会課題や企業・自治体の取り組み等を幅広く取材し、課題解決に向けた具体的なアクションに携わりたいという思いからPR業界へ。PRプランニング専門部署にて、メディア視点の情報流通設計コンサルティングやリスクマネジメント、社会課題起点の企画プランニングに携わる。

OPINION

「ニュース」に仕立てる意識を

一つの商材を「マルチコンテクスト」で情報発信していくには、各切り口をそれぞれ「ニュース」として仕立てる、言い換えれば、それぞれを「プレスリリース」に仕立てることが必要です。

調査データや社内制度は本来、取材要素の一つとして捉えている方が多いと思います。しかしこれを、5W1H(どんな背景で、いつ、どのように実施したのか等)を明確にした情報加工(言わば「イベント化」)を加え、配信のタイミングを整えれば、一つのニュース=プレスリリースとして仕立てることも可能です。そのためには、早い段階から「どうすればこの切り口でプレスリリースにできるか」という視点を持ち、必要な要素を逆算しながらコンテンツ開発していくことが重要です。

共同通信
PRワイヤー
取締役
銀山一浩

企業広報戦略研究所(2013年設立)は、経営や広報の専門家と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析などを行う電通PRコンサルティング内の研究組織。https://www.dentsuprc.co.jp/csi/

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