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データで読み解く企業ブランディングの未来

広報視点で捉える法改正・ルール変更と広報環境

Supported by 電通PRコンサルティング

企業の広報戦略・経営戦略をコンサルティングするプロが企業ブランディングのこれからをひも解きます。

今回のポイント
①法改正は広報として注視すべきタイミング
②パブリックアフェアーズ活動は広報視点が必要
③ルール形成には世論喚起が必要

4月は多くの法改正があり、社会環境も大きく変わるタイミングとして広報担当者は自社の事業領域に及ぼす影響についてしっかりとアンテナを張る必要があります(図1)。

    図1 2023年4月に施行される主な法改正・ルール変更

  • 道路交通法
  • 個人情報保護法
  • 食品表示基準
  • 労働基準法
  • 育児・介護休業法
  • 民法
  • 不動産登記法
  • 相続土地国庫帰属法

特に業界にかかわらず、ワークライフバランスや男性育児休業の取り組みなど、昨今注目される領域では、自社の採用活動における積極的な情報発信の機会として捉えることも重要です。

注目度の高い法改正

自動車業界における注目の法改正として「道路交通法」があげられます。近年、自動運転技術の進化には目を見張るものがありますが、もし自動運転が可能になれば、宅配需要の高まりに対するドライバー不足という課題解決につながるだけでなく、さらなる流通革命につながるとも言われています。

また、「特定自動運行」という自動運転の解禁により、許可を得たモビリティであれば自動運転が可能となります。自動運転はいまやスマートシティ推進の中心的役割を担うものでもあり、単にモビリティ業界だけでなく、まちづくりや次世代型社会インフラの整備、観光需要の創出など、大きなムーブメントの着火点となり得ます。

関連業界においては、広報視点で新サービスにおける未来感の醸成、具体的な企業の将来像を示すことが、自社レピュテーションの向上を図る良きタイミングとなるはずです。

一方、情報通信などの領域で注目されるのが「個人情報保護法」の改正です。昨年までの施行範囲が拡大され、個人情報保護委員会が一元的に制度を所管する形となります。これは企業にとって、さらにルールが厳格化されることになるので、この変化を放置しておくのは非常に危険であり、リスク管理の観点からも十分に理解しておく必要があります。

また、2022年4月の個人情報保護法改正では、「仮名加工情報」という類型が新しく導入され、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにデータ加工すれば、マーケティング等のデータとして企業内で活用可能になりました。これにより新たなビジネス創出につながるのではないかと期待されています。

グレーゾーン解消制度とは

政府のスタートアップ育成5カ年計画が2022年11月に発表されましたが、投資環境は悪化の一途を辿っており、2023年もこの傾向は続くと考えられます。現在、スタートアップ企業に強く求められているのは、生活者が法律やルールに抱いている不平不満の解決に、自社のサービスがどう役立つのか、メッセージを分かりやすく提示していくことです。

ここで注目したい法規制が「グレーゾーン解消制度」です。事業者が新しい事業創造において阻害要因となると推測される規制については、その規制を管轄する省庁に対して解釈の確認と規制が適用されるか否かを確認できる制度です。スタートアップ企業はこの制度を活用して、事前に自社の事業性の検証及び確認を行い、その後事業計画を立案するステップを踏むことができます。スタートアップ企業の広報担当者は、事業計画や経営戦略の動きも見据えて、パブリックアフェアーズ活動と広報活動の両輪を回していかなければなりません。

ルール形成と世論喚起

ルール改正や新ルールの施行などにおけるパブリックアフェアーズ活動の一つに、“行政や国会議員等のルールメーカーとの関係構築”があります。これを後押しするのが世論であり、自社に対する社会からの期待、応援、要請があることをアピールする必要があります。それらを裏付けるデータや事例の創出においては、広報部署が業界団体などと連携し、一企業の都合ではなく社会的な観点に立った情報として発信することが重要です。

企業広報戦略研究所の調査データでは、「規制緩和やルール形成を目指し、世論喚起に向けた広報活動を行っている」と回答した上場企業は6.7%と、日本の企業ではまだまだ低い実施率に留まっています(図2)。

図2 実際に取り組んでいる広報活動(実施率)
~PA(パブリックアフェアーズ)活動への取り組みは現状では最下位に

調査対象:日本の上場企業3765社 広報担当責任者、有効回答数:450社、調査方法:郵送・インターネット調査、調査期間:2022年6月27日~8月5日、「新・企業広報力調査2022」より(企業広報戦略研究所調べ)

このように、法改正などのルール変更は事業存続の要となるだけでなく、企業広報のチャンスでもあります。事業・サービスの周知という狭い観点ではなく、企業の未来像をイメージさせ、レピュテーションを向上、維持拡大するという観点から積極的に活用してみると、新しい広報活動の姿が見えてくるのかもしれません。

*詳細は当研究所サイトにてhttps://www.dentsuprc.co.jp/csi/csi-topics/20230301.html



電通PRコンサルティング
企業広報戦略研究所
上席研究員
中 憲仁(あたり・のりひと)

コミュニケーションに関する調査、広報効果測定から、調査結果に紐づいた広報戦略立案、企業広報アドバイザーとして幅広く従事。BtoC企業、自治体、官公庁、インフラ企業、メーカー等幅広く手掛ける。2022年1月よりパブリックアフェアーズ担務。

企業広報戦略研究所(2013年設立)は、経営や広報の専門家と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析などを行う電通PRコンサルティング内の研究組織。https://www.dentsuprc.co.jp/csi/

OPINION

「両利き経営」を下支えするインテリジェンス機能

日本企業が既存事業を深化させていく上で同時に新しい新規事業やスタートアップを推進することは、「両利きの経営」を行う上で不可欠だといえます。

新規事業やスタートアップの推進は、人的資本のリスキリングにもつながり、新しいワークエンゲージメントやモチベーションを従業員に生み出し、組織全体の変化に対する適応力や厳しい経営環境に対するレジリエンスにつながります。

あくまでも民間企業が主導であることが前提ですが、そのためにも企業として経営環境を先読みするインテリジェンス機能は重要であり、ルールと対峙していく姿勢は今後さらに重要なものとなっていくのではないでしょうか。

立教大学
経営学部経営学科、ビジネスデザイン研究科
安田直樹 准教授

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