企業の広報戦略・経営戦略をコンサルティングするプロが企業ブランディングのこれからをひも解きます。
今回のポイント | |
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①価値づくりへの期待に対応することがより重要に | |
②PA、データ活用、リレーションシップが弱点 | |
③広報主体の「ファクト力強化」に期待 |
企業広報戦略研究所は企業の広報活動の実態や課題を把握することを目的に、2014年から隔年で企業広報力調査を実施している。第5回となる本年は、近年の広報活動の変化に伴い、調査モデルを大きく刷新した。その背景として、昨今はメディアや株主だけでなく、多くのステークホルダーに以前にもまして向き合っていく必要性が高まったこと、“統合報告書”や“ESG説明会”など、“非財務ファクト”の発信がより重要になっていることなどから、従来の評価軸では評価できないことが多く出てきたためである。
ESG、SDGsの取り組みに期待が高まる今、これからの広報は企業価値創造の視点をより強く意識していく必要がある。
広報力を強化する新たな視点
これからの広報力として重視したポイントは4つある。「戦略の強化」「企業としての課題の把握・目標の設定」「ファクトを生み出す力」そしてそれが「社会に与える影響」である。広報活動において、情報発信の戦略は重要だが、それ以前に、企業として目指すところ(パーパス)や課題に沿っているか、その活動の社会的影響を的確に評価しているのかを改めて考慮し、モデルを刷新した。
本調査では、企業の広報活動を「Strategy」「Activity」「Management」の3要素に分け、それぞれの要素をさらに3つの領域に分類した合計9つの軸で評価した(図参照)。
調査で分かった意外な弱点
前述に基づいた9つの広報力×10設問の90問の調査票を作成し、国内上場企業約450社から回答を得た。その結果、企業の広報活動において、さまざまな課題が見えてきた。
まず、全体傾向として、「ファクト力」「エンゲージメント力」「インパクト評価力」の活動が他の広報力と比して弱いことが読み取れた。
「ファクト力」とは、広報目標達成に必要な企業の活動実態(ファクト)をプロデュースする能力のことであり、多くの企業はその整理(どのような活動をすべきか、実行しているか等)ができていない、または、効果的にプロデュースできていないことがうかがえる。「事業部門からエビデンスやファクトのないニュースのリリースを頼まれることがある」という広報担当者の悩みを時折聞くが、「ファクト」のない広報活動はイメージでしかなく、実態が伴わない発信は、炎上を招く可能性すらある。
同調査におけるこのファクト力の企業実施率は「ESGやSDGsの活動」が最も高かったが、逆に低いのは「規制緩和やルール形成の世論喚起活動」や「社会的影響のデータ化」「NPO・NGOとの取り組み」、「ステークホルダーの期待や不安に対応するアクション」などが挙げられる。つまり、企業の広報活動では「PA(パブリックアフェアーズ)領域」「データ活用」「外部とのリレーションシップ」が弱点であることが分かった。
また、「エンゲージメント力」とは、重要ステークホルダーとの信頼を深め、社会的価値を共創する能力のことであり、幅広い重要ステークホルダーに充分対応できていない広報の姿が見て取れた。「インパクト評価力」とは、広報活動の社会的影響(インパクト)を継続的に測定する能力のことであるが、いまだ多くの企業が広報活動の効果測定でメディア掲載を重視する一方、社会的影響を測る意識が低いことがうかがえる。
「ファクト力」向上のために
広報活動の基盤である「ファクト力」を向上するためにはどのような取り組みが必要なのか。本調査における「ファクト力」関連項目で企業の実施率が高いのが「広報目標達成に向けたESGやSDGsの活動の取り組み」と「開示と非開示ファクトの整理」であり、それぞれの実施率は約4割であった。
また、回答企業を広報力総合得点の高さで3クラスに分けて各項目の実施率を分析した際、「広報目標達成に向けたESGやSDGsの活動の取り組み」と「開示と非開示ファクトの整理」が広報活動下位層と中位層のギャップが大きい項目になっていた。中位層を目指す企業でこの2項目を実施していない企業は、「ESGやSDGs活動への取り組み」が、今後重視する広報活動ランキングの第2位でもあるため、この2つの活動への着手が期待される。
さらに、広報が他部署へ積極的に働きかけ、社内を巻き込む活動において、全般的に実施率が低い傾向にある。中位層と上位層のギャップが大きい項目を見ていくと、「従業員参加型のプロジェクト」や「ステークホルダー向けのアクション企画」「社会的影響力をデータによって見える化」に注力することは、広報力の上位層に上がる必要条件であろう。
広報主導で価値づくりを
社会が求める期待に応えるための企業の「ファクト力」は、現在の企業広報において最も必要な力である。すべての期待に応えられている企業はまだ多くはないが、広報力調査で高い評価を得ている企業は確実に押さえているポイントでもある。幅広いステークホルダーへの対応は、企業と社会の接点にある広報部門が主体的にリードすべきだと考える。
OPINION
ステークホルダーの期待や不安に応え続ける企業姿勢が「ファクト」になる
近年、企業経営において、良い経営環境の構築に対する期待・要請が高まっています。それにともない、経営戦略を支える「広報戦略」が求められているのではないでしょうか。
今回の調査を見ると広報目標の達成に貢献する自社の「ファクト」を見つけられていない企業が多かったです。ステークホルダーの期待や不安に応え続ける企業姿勢そのものが一番の効果的な「ファクト」につながります。広報部門が全社のハブになって取り組むべき活動と言えます。