ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
さいたま市消防局がTwitterで「救急隊に食事の時間を!」と投稿したのは、コロナの感染第7波の入口で、救急隊の出動が続く時のことだった。救急出動が続いて消防署に帰れない時には、「出動できる体制を取りつつ、救急隊がコンビニ等で飲食物を購入し食事をする事がありますので、ご理解をお願い致します」として、ホームページにリンクが貼られていた。リンク先では、救急隊が医療機関に併設されているコンビニエンスストアや売店を利用して、飲食物などを購入することがあると伝えている。
7月下旬に投稿されたこのツイートは広く拡散され、テレビニュースでも取り上げられた。「異例の呼びかけ」「叫び」といったタイトルが付き、「なぜ、こんな投稿をしたのでしょうか?」と事情や背景をまとめたものが多かった。
2つの驚きの事実
ツイートには、2つの「驚きの事実」が含まれていた。ひとつは、「救急隊が食事がとれないくらい忙しい状態にある」ということ。もうひとつは、「救急隊がコンビニなどに寄ることにクレームを付ける人がいるのでは」という声がネットで上がったことだった。ニュースによると、クレームが投稿のきっかけになったわけではなく、「いろいろな意見がある」ということを踏まえての発信だったようだ。
驚きの事実(サプライジング・ファクト)は、広報のネタ探しでは一般的なキーワードかもしれない。自分たち(専門家や業界)の間では当たり前のことだが、世間ではあまり知られておらず驚かれる事実のことを言う。この驚きの事実を今回のようにSNS投稿に使えれば、反響を得やすい。
問いに答えて理解促進に
救急隊と言えば、今年2月に静岡・袋井市消防本部Twitterの「緊急走行中の救急車の車内では」と題するツイートが注目を集めている。「緊急走行中の救急車が遅くてイライラ⋯そんな経験はありませんか?」と投げかけ、車内の様子を動画で伝えている。そこでの「驚きの事実」は、救急車の車内はとにかく大きく揺れ、揺らしてはいけない症状や傷病者の処置に気を使いながら運転していることだった。「なぜ遅いのか」という一般的な問いをもとに、驚きの事実が答えになっていることで、大きな反響につながったと考えられる。
「問い」と「驚きの事実」の組み合わせは、組織の公式投稿に広く活用できる。今回紹介したニュースのようにタイムリーさが加わった発信なら、さらに事情の理解にもつながりやすい。東京消防庁は8月、コロナ患者搬送に35時間かかった例があったことを明らかにした。ひっ迫する医療現場の厳しさを伝える上でも重要なタイミングだ。そんな時、効果的に理解を促す「驚きの事実」をぜひ日頃から用意をしておきたい。
社会構想大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/ |