ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
熊本の秀岳館高校サッカー部の動画拡散に端を発する事件とその後の対応は、ネット告発の歴史でも代表事例のひとつになるだろう。まずコーチが生徒を殴打する動画が拡散して注目を集めた。次に生徒たちが釈明する動画を公開。顔出しで自ら名乗り、教員はいなかった。次に監督がひとりで情報番組に生出演して謝罪。生徒の釈明動画への関与はなかったと語った。しかし後にそれが嘘だと発覚する。
そして番組で見せた謙虚な姿勢とは真逆の、生徒を脅す監督の音声が拡散した。最初の動画拡散から2週間後にようやく秀岳館高校は記者会見を開いた。校長は冒頭の謝罪以外は喋らなかった。監督は細かな説明をせず謝罪を繰り返すばかりだった。
ネット告発の意味
ここでは、この種の問題において広報が持つべき視点を整理しておきたい。まずネット告発は、それ以外の選択肢がない場合に取られるのが一般的だ。つまり告発者は内部通報などが機能しないと見ていること、また組織内では解決が困難だと見ているということだ。
そして告発される側の組織は、騒ぎを目立たせなくすることを優先して処理しようとする。広報の力量が問われるのはまさにここだ。もし ①絶対権力者(監督)の存在がある ②ネット書き込みでネガティブな声が多い ③問題の関係者が全て組織内 といった場合には、「今後の展開」を予見して、広報は組織内で強く警戒を促さねばならない。
相談できる外部の仲間をつくれ
今回のような問題が発生した時、広報の最も大きな役割は「透明性を確保すること」である。組織体質の問題を疑われている中で、組織内で短期の処理で終わりにすれば、「隠ぺいだ」とレッテルを貼られて影響が長期化する可能性が高いからだ。解決に至るプロセスに納得感が乏しければ、告発が続く可能性もある。番組出演後に監督の恫喝音声が拡散されたのはその証だ。
教頭は記者会見で、警察が来て暴力事件として捜査すると言われたことで調査が遅れたと語った。警察の捜査によって制約を受けるのは間違いないが、外部に向けた発信が監督ひとりによる一番組への生出演で済ませようとしたのは決定的な悪手だった。告発による対立構造がある時は、告発者と責任者、そして組織が共同で発表をすることで、関係者の同意が得られていることを、説得力を持って伝えられる。適切な共同会見のタイミングは、今回でいえば生徒の釈明動画の拡散直後だった。
組織内で声を上げるには、覚悟と確信が必要だ。そのために広報は組織外に相談できる仲間を持ちたい。内部の目では見えない視点から、率直な意見をし合える人物である。その上で、最初の動画が出回った段階で、少なくとも先の展開の可能性は語れるようになっておきたい。それができないのは、単なる準備と勉強不足である。
社会構想大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/ |