ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
2022年3月16日夜、東北地方を中心に最大震度6強の地震が起きた。東京電力は23時53分にTwitterで、原発を念頭に「地震による当社設備への影響を確認しております」と投稿していた。次の投稿は約2時間半後の17日2時21分。「地震による福島第一・第二の状況については、当社HPでお知らせしております」という内容だった。松野博一官房長官は17日の会見でこれに言及し、市民に直接発信するのも大事だとして「タイムリーな情報発信」をするよう指導したと述べた。
2011年の東日本大震災で、政府は自治体に向けてTwitterをはじめとするSNSでの情報発信を呼びかけていた。様々な障害でHPそのものが見られなくなる状況などもあってのことだった。以来、自治体・企業問わずSNSの活用は進められてきたが、現在に至るまでその使い方に統一の基準がなく、実態としては発信頻度や位置づけも組織によって大きく異なっている。今回、そんな状況で官房長官が発したのは、「タイムリーな情報発信」はHPに掲載するだけでは不十分という意味だと捉えるのが妥当だと考えられる。
SNSに期待される更新情報
最新の情報を求めてSNSを確認することが一般的になって久しい。地震や津波、台風といった災害時はもちろん、不正アクセスなどのサイバーセキュリティ問題、サービスやATMなどの稼働そして交通機関の運航状況など、「あれ、おかしいぞ」と思った時にすぐに情報を得たい場面は少なくない。
そして企業などでも、BCP(事業継続計画)の観点からタイムリーに情報を集約するシステムを持つようになっている。ところが収集した情報をタイムリーに発信できているかというと、心許ない組織がまだまだ多い。情報はあるのに、期待されている場所から発信していない、というのが今回起きた状況だ。「夜中だから」ということもすでに言い訳にならなくなっている。
必要な備えと検討項目は?
必要な備えとして、基本的な確認のポイントがいくつかある。
まず、①集約した情報をどれだけタイムリーに発信できるかを確認し、その時差を小さくしていく。そして、②プレスリリースとHP掲載、SNSでの発信を連動させる。③SNSで発信する緊急情報はHPにリンクさせず(アクセス集中でサーバーダウンする可能性がある)画像で貼り付けるなど負荷分散やユーザーの利便性を考慮する。④誤解を生まない表現、古い情報が拡散しない仕組みを決める。⑤SNSアカウントは日頃からアクティブな状態を保つためエンゲージメント率などを高める、などだ。
ユーザーにとって必要な情報が得られないと、それだけで不安が生まれる。不安が広がる時は、デマが広がりやすい時でもある。情報を整理し、必要とする人にタイムリーに届けるのは広報の重要な役割だ。平時のうちにしっかりと必要な準備をしておきたい。
社会構想大学院大学 客員教授 ビーンスター 代表取締役社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/ |