メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は秋田大学の益満 環ゼミです。
DATA | |
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設立 | 2019年 |
学生数 | 3年生5人、4年生6人 |
OB/OGの主な就職先 | 秋田県庁、山形県庁、横手市役所、秋田県信用保証協会、アイリスオーヤマ、NTT東日本、秋田銀行 他 |
益満 環ゼミでは、「地域マーケティング」を研究テーマに掲げ、理論と実践の双方から産学官連携による地域活性化について研究を行っている。特にマーケティングの知識と講義では習得が難しい実践知の獲得に力を入れてきた。
酒造りの製造からPRまで
活動のひとつに、大仙市内の酒蔵5蔵と大仙市役所の産学官連携で進めた「醸して大仙プロジェクト」がある。2020年度から新型コロナウイルスの影響により売上が3割落ち込んだ酒蔵を支援しようという目的で始まった同プロジェクト。酒米づくりから仕込み、販売・PRまでの全工程において学生が関与し、2021年3月、「大仙酒蔵統一コレクション宵(よい)の星々(ほしぼし)」を商品化した。
「大手通販サイトの吟醸酒部門では第2位の売上となり、コロナ禍で経営がひっ迫している酒蔵や酒米農家の売上回復に貢献できました。大学と現場を何度も往復し、汗水垂らして酒米から日本酒を造り、国内外に向けて情報発信し続けた地元企業を思う学生の精神力の強さに感銘を受けましたね」。
ゼミ生も「秋田の重要な地域資源である日本酒や酒蔵の魅力を発信し、認知、興味、購買へつなげることの重要性と難しさを学ぶことができた」「良い品質の商品をつくっても、消費者に伝わっていなければ、意味がないということを痛感した」「地域資源を活かしたブランド創出を新たな場面へと活用し、更に秋田を盛り上げていきたい」と、ブランドづくりやPRする難しさを実感しつつも、地域活性化活動への関心を高めていた。
横手やきそばをPR
また、2019年には「東北地域ブランド総選挙(特許庁および東北経済産業局主催)」に出場。最優秀賞を受賞した実績もある。このイベントは、東北地域の大学から18チームが出場。学生が地域団体商標権者などを取材し、その取材をもとに地域商品やサービスの魅力をInstagram上で発信。今後の新商品や新ビジネスのアイデア、PR施策などを競い合うイベントだ。
益満ゼミでは、日本3大やきそばとして有名だが、魅力の発信の仕方が分からない、後継者がいないなどの問題に直面する、横手やきそばのPR施策を考案。「横手やきそば大学の開校を提案し、最優秀賞を受賞しました。各種メディアでこのPR活動が広く紹介され、横手やきそばの更なる認知度向上に貢献できたことは大変うれしいことでした。ゼミ生は、約半年もの間Instagramで投稿を続けながら、キャッチコピーの付け方、ストーリーのつくり方、プロモーションの仕方など、難しい内容をよくこなしてくれました」。
地域マーケターの育成
全国の大学で、酒造りをしている大学は他にもあるが、すべての日本酒造りの工程に携わり、特にマーケティングの知識を活かしてラジオ、新聞、テレビ、SNSなどのメディアをフル活用して日本酒のPRをしているゼミナールは珍しいのではと、益満准教授。
「産学官がスクラムを組んで、地域ブランディングに取り組んでいる例は国内では少ないです。自治体や企業、そして地域住民を巻き込むことで地域の商品やサービスが地域のブランドとして定着し、地域全体の価値を高めることができます。結果として、我々の活動が他地域にも広がり、より大きな相乗効果を生み出していけることを私のゼミで体感してほしいです。そして、ゼミでの経験を活かして、将来、人口減少と少子高齢化の著しい秋田県の現状を打破し、地域活性化を推し進めてくれるような『地域マーケター』的感覚を持った社会人になってほしいと願っています」。
震災時に感じた学生のパワー 故郷・秋田の価値創出へ
益満准教授は、東日本大震災で最も甚大な被害を受けた宮城県石巻市にある大学で、15年間教鞭を執っていた。
「震災後、学生たちが復興を願う強い気持ちと行動力によって被災自治体や被災企業の復興を強く後押しし、貢献してくれました。私もいずれは故郷の秋田に戻り、秋田の活性化のために優秀な学生を輩出したいと考えるようになり、念願かなって4年前から秋田大学で教鞭を取ることができました」。
秋田県は全国で最も人口減少と少子高齢化が進んでいる県だ。また、厳しい経済雇用情勢や地域活力の低下など様々な問題に直面している。「秋田には秘められた多くの地域資源が眠っています。今後は現在連携している大仙市や横手市以外の地方自治体や企業とも連携し、新たな秋田の魅力に着目・編集しながら地域価値の向上に尽力したいです」。