メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は京都産業大学の脇浜紀子ゼミです。
DATA | |
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設立 | 2019年 |
学生数 | 3年生17人、4年生15人 |
OB/OGの主な就職先 | 映像制作・番組制作、ポストプロダクション、e-sports配信、ネットライブ配信、SNSネット広告、アミューズメント、アパレル、人材、システム開発、物流、食品など |
京都産業大学で教職を執る脇浜教授のゼミのテーマは、「マルチプラットフォーム・ストーリーテリング」。各プラットフォームの特色を理解し、多様な表現手法(テキスト、グラフィック、音声、動画など)を使い分け、効果的に情報を伝える『ストーリーテリング』のスキルを磨いていく。「これは、企業や自治体自らがSNSやYouTubeで情報発信する時代に、すべての職場で必要とされている力。実践から会得していくものと考えています」と脇浜教授は説明する。
「ライブ」番組の制作
中でも、ライブ動画の制作にこだわっている。12月の卒業制作も2時間程度の生番組制作が課題となる。なぜか。「ゼミ生には、自分で課題を見つけ出しその解決策を探る、『自ら道を切り拓く』実践を経験してほしいと思っています。その際、キーとなるのが『チームビルディング』です。ドキュメンタリーやショートフィルム制作は個人でもできますが、『生番組』は複数人が同期して活動する必要があり、多様なメンバーのスキル、能力、経験を見極め、それを最大限に引き出していく必要があり、最適な活動だと考えています」。
メインの活動のひとつが、月に1度の地域のコミュニティ・ラジオでの生番組制作。番組制作班、SNS情報拡散班、ウェブ記事化班に分かれて制作する。また、オープンキャンパスのYouTube配信やゼミで運営する学内デジタルサイネージ用のコンテンツ作成など、様々なコンテンツ制作に取り組み、最後の卒業制作に向けての力を養っていく。
「ゼミ生は動画制作の未経験者がほとんどですが、これらの活動を通し基礎を身に付けつつ、自分の役割の発見、他者との協働(チームワーク)を学んでいきます。単にコンテンツ制作手法を学ぶだけではなく、そのプロセスで、スケジュールの立て方や、関係者との交渉の仕方、プロジェクト運営の方法など、実社会で不可欠な経験値を積み上げていきます」。
ゼミのOGのひとりに話を聞くと、「ゼミをきっかけに映像編集に興味を持ち、就職までつながりました。楽しみながらもしっかりと活動できる環境をつくり上げられたからこそ、多くの知識や技術を身に付けることができました」とゼミでの学びを振り返る。
コロナ禍でも能動的に活動
2020年春学期、コロナの影響ですべての授業がリモートとなったことを受けて生まれた活動も。新1年生の不安を少しでも解消しようと、毎週土曜日夜にYouTubeライブ配信を11回にわたって実施したのだ。この活動は『読売新聞』にも取り上げられた。「パソコン購入を検討する1年生のために、ゼミ生の利用機種を説明したり、部活・サークル紹介、SNSを通して寄せられた質問に答えるなど、充実した内容になりました」(脇浜教授)。
また、それだけにとどまらない。京都産業大学はコロナ禍で最初に大学のクラスターが発生し、世間から批判の声が集まり、関係のない学生たちがバイト先をクビになるなど、不当な扱いを受けることがあったという。1期生の卒業制作番組のテーマ「Spirit of KSU」には、そんな京産生の自信を取り戻したいという特別な意味が込められていた。この思いに共感してくれたのが、大学OBである笑福亭鶴瓶さん。
「ゼミ生たちが手紙を書いて、アポイントを取りました。ちなみに、私自身は全く力を貸しておらず(手紙の添削をしただけ)、正直、あのような大物芸能人の方が受けてくれるはずはないと思っていましたので、とても驚きました。鶴瓶さんは、京産時代の思い出やエピソード、今の学生たちを励ますメッセージを語ってくれました。教員となってはじめて受け持ったゼミ生だったこともあり、若者のひたむきな思いのパワーを感じた出来事でした」と脇浜教授は振り返った。
元アナウンサーからの転身 チャレンジに前向きな学生たちから刺激
メディア研究を始めるきっかけとなったのは、アナウンサー時代の阪神・淡路大震災の報道経験。「無力で、役に立たなかったメディアの有様に、このままではいけないと痛感しました」。
1999年からはアメリカへ留学し、デジタル変革の最前線を学んだ。2010年には大阪大学大学院国際公共政策研究科で博士号を取得。その後、京都産業大学が現代社会学部を新設するタイミングと、勤務先テレビ局の早期退職制度導入が一致し、教授職に就くこととなった。
「50歳という節目を迎えることもあり、何か新しいことをしたいと考え、キャリアチェンジに至った次第です。既得権益の強い業界は、なるべく変革を遅らせようとする空気感が強くなりがちな一方で、学生たちは何か新しいことにチャレンジしたいという思いがみなぎっていて、とても刺激を受けます」。