「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない⋯⋯」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
コラボレーションへのハードルをどう崩していくか
昨今はウクライナ支援や防災問題、SDGsに関連した広報活動など、これまでの企業広報よりも、さらに社会性の高い切り口での広報活動が求められている。企業を取り巻く環境は日々目まぐるしく変化し、“VUCAの時代”(「Volatility:変動性」「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」「Ambiguity:曖昧性」)とも呼ばれている。
自社が単独で行える広報施策は限られている。そうした背景から、異業種やNPOなどと企画段階からコラボレーション(連携)やコンソーシアムへの参加を前提とした広報などへの期待が高まっているのだ。しかし、広報部門が自らコラボ先を探し、アプローチをし、主体的にコラボレーション活動を実施することのハードルは相変わらず高い。
「相手側から声がかかれば、やってもいいけど⋯⋯」というのが正直なところだという担当者の声もよく聞く。今回はこの数年の意識の変化を踏まえ、一歩進んだ形での企業間コラボについて企画書の書き方を考えていこう。
視点1
誰が提案するべきか
「異業種コラボ」はなぜうまくいかない?
企業のコミュニケーション部門の役員や責任者の方からよく尋ねられるのは、異業種とのコラボレーションは「誰が(どこの部署から)提案をするものなのか」という問いだ。確かに、社内に「コラボレーション」を専任で行う担当者や部門は少ない。
そもそも企業内のコミュニケーション部門では、有料出稿とパブリシティ活動を行う部門が分かれていることは多い。このため、他社とのコラボレーションは「有料出稿なのか?」「フリーパブリシティなのか?」という、あまり本質的ではない職務分掌の問題にも触れることにもなる。
一方、有料出稿を担当する部門は広告会社、(フリー)パブリシティの担当部門はPR会社との日常的な付き合いがあることが多い。しかし、企業間コラボレーションに関して言えば、広告会社からもPR会社からも、良質な企画提案が積極的にはなされていない現実もある。「広告枠」の販売を前提としてきた広告会社の視点に立つと、いわゆる純広告の枠を販売することと比べると、企業間コラボの提案は実現に至る確実性も低く、何より“手離れ”がかなり悪い。
また、PR会社の視点では、月額フィーでクライアントと契約するケースが多く、企画性が高い企業間コラボレーションの提案は、現状の社内リソースの活用だけでは対応が難しいこともある。企業サイドからの強い依頼がある場合を除くと、特定企業の名前を出して別の企業に打診することは現実的には難しい。専門チームをPR会社内につくるにも、現状の企業からの委託予算内では積極的に提案しにくいのが現状なのだ。
まして、昨今のような「VUCAの時代」においては企業が置かれている市場環境の変化は激しい。依頼する企業側の視点でも、リードタイムの長い企業間コラボレーションを社内で企画し実施にまで至らせる余裕がないのが現実。単発プロジェクトとしては実施される企業間コラボレーションも、継続した実施体制を取ることは珍しい(図1)。
企業
●お金がかかる提案は広告(出稿)部門では?
●メディア枠を買わないから広報(パブリシティ)部門では?
●独自企画には手間がかかる
●コラボ先にパイプがない
●広告会社やPR会社から提案がほしい
広告会社
●手離れが悪い。クライアント間の調整が大変
●マージンが少ない。利益が出にくい
●必ず実現するとは限らない。提案上のリスクが高い
●広告枠の売上につながらない
PR会社
●メディア露出と関係ない。PR会社の仕事ではない
●どうしてもと言われればコラボ先に持ち込み提案はするけど不慣れ
●クライアント同士をつなげる意味がない
●コラボ専門部署がない
こうした背景から企画立案を行う部署は特定しにくい。また、マネジメントのノウハウが部門内に引き継がれないため、経験値が属人化しやすくなる。マネジメント層にとって「自分ごと」になりにくいことが、企業間コラボレーションが求められているにもかかわらず、実現が難しい理由のひとつだと筆者は考える。
このように、「VUCAの時代」において、他社との協業を含めた企業間コラボレーションの重要性は認められつつあるが、社内外での理解が足りないことや、まだまだハードルが高い面もあることから、より良い形でのコラボレーション広報を実現するためにも、十分に練られた企画書の作成が重要となる。
視点2
ゴールを明確にできているか
企業間コラボレーション4つの目的
そして、企業間コラボレーションの企画書の作成で特に重要なのは、そもそも何のためにコラボなのかという「目的」の設定となる。
改めて異業種(企業間)コラボレーションの意義・目的を整理する。企業間コラボレーションの目的には大きく4つあると考えている。❶社会との価値共創と自社USP(Unique Selling Proposition)の強化 ❷新しい顧客接点の模索 ❸新しいライフスタイルの提案 ❹メディア露出の強化の4つの視点だ。企画書上にどのように「目的」について反映できるかを順に考えていきたい。
企業間コラボレーションの目的①
社会との価値共創と自社USPの強化
精度の高い情報しか生活者に届かない
ネット社会の中では、常に商品情報や生活関連情報は氾濫している。膨大な「無駄な情報」には触れることなく、いかに「自分が必要とする情報」だけを取りにいくかが、VUCA時代においてはさらに重要になった。日に日に変わる「最新情報」の中で、得られる情報から、より効果的な広報戦略を立てていくことが重要となる。
顧客にとってもVUCA時代の情報収集方法は同じ傾向となる。興味のない情報は顧客に届かないものと考えたほうがよい。企業の広報担当者は、「自社が発信したい情報」を発信すればよいのではない。顧客にとって「自分ごと」となる顧客の志向に沿った精度の高い情報(ストーリー)を構築し、効果的に届けなければならない。
ところが、多様化する顧客ニーズに応じた情報(ストーリー)発信を、自社が単独で行うことは難しい。このためパートナー企業との共同施策(コラボレーション)が有効となる。企業間でコラボレーションを行う意義はこの点にある。
USPとは、企業やブランドが市場において、自社のコミュニケーションを図る際に、特に強く打ち出す“独自のウリ”となるポイントのことである。かつては、メーカーとしての研究開発に基づく技術力や商品開発時のデザイン力、あるいは販売後の付加価値となるアフターサービスなどに企業は独自性を発揮することができた。あるいは徹底した合理化による企業努力で価格訴求を行うことで、自社の持つUSPの訴求を行った。
しかし、今日では技術力や商品開発力あるいは価格訴求などで市場での圧倒的な差別化を行うことは難しくなっている。あらゆる商品が高機能かつ低価格を実現しコモディティ化が進んでいる。こうした市場環境で差が生まれるのは、社会的課題や生活者ニーズにいかに寄り添った形での「ストーリー性」の有無となる。この「ストーリー」の構築を広報部門が中長期的にどのように行っていくかが重要となるのだ(図2)。
●民間企業によるウクライナ支援や国内での防災問題への関心の高まり
●SDGsに関連した企業活動の強化
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●これまで行ってきた販促広報や企業ブランド訴求とは異なる、より「社会性の高い」広報活動が求められる
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●自社が単独で行ってきたコミュニケーション活動に加え、他社を交えて企画段階からのコラボレーション(連携)の必要性が高まる
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●非営利団体/NPOとのコラボレーション
●産学連携による中長期的な研究開発事業への取り組み
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結果的に自社のUSP(独自の“ウリ”)の強化につながる
既存の強みにこだわらない発想を
企業同士のコラボレーションは自社のUSPの強化と訴求を促すための有効な手段となる。この際に注意したいのは、大切なのは「独自性/排他性」「希少性」であって、必ずしも旧来の自社が持つ「強み」を活かそうとしなくてもよいことだ。
自社の「強み」にあまりこだわり過ぎることは、むしろ企業間コラボレーションの醍醐味を潰してしまうことにもなりかねない。あくまでUSP構築の際に重要なのは、独自の「ウリ」につながるかどうかの広報視点からの戦略性になる。
一方で、自社のUSPを強く訴求することで、失う何かも必ず存在する。例えば、現在のウクライナ支援の問題を例とすると、ウクライナでの医療支援を行うNPOを通じてウクライナへの寄付を集める活動を行い、自社の社会的責任として人道の尊重や平和な世界への貢献をUSPとして強く打ち出すことは、仮に自社がロシア国内でのビジネスを行っていた場合には、当然、自社のロシア国内での広報活動や販促活動には重大な影響を及ぼすことになる。
社会とともに築く「価値共創」を自社のUSPとして広くコミュニケーションしていく際に必要とされるのは、自社がどのような経営理念を持ち、どのような社会を「良い社会」であると定義し、そのために具体的にどういったアクションを行っているのか、自社の存在の在り方や経営理想そのもの(大きな物語)に他ならない。
企業間コラボレーションの目的②
新しい顧客接点の模索
マスだけでは顧客接点が生み出せない
人口減少の流れの中、企業にとって新しい顧客との接点拡大は急務である。一方で、「VUCA時代」においては、変動性、不確実性、複雑性などが入り混じって、自社がこれまで築き上げてきた過去の実績や成功スキームは...