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広報担当者のための企画書のつくり方入門

ひとり広報からチームへ 広報部門を立ち上げるための企画書を書きたい!

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない⋯⋯」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。

脱“ひとり広報”結局なにが必要?

本コラムでは「広報部門」という言葉を使いがちだが、実際には「ひとり」で広報業務を担っているケースは多い。こうした「ひとり広報」として活躍中の方たちからは、「早くチーム化したい」とよく相談を受ける。自社の業績が伸び、広報業務も増えてくると、これまでのようなひとり体制では業務が回らなくなる。また、コロナ禍では、ステークホルダーとのコミュニケーションも大きく変化。

社内広報への重要度が増したり、動画やオンラインでの情報発信強化に対応が急遽迫られ、人員増に動き出す企業も多いのではないか。広報体制を強化し人員を増やしたい場合、具体的にはどうやってチーム体制を整えていけばよいのか。今回は「広報部門の強化(立ち上げ)」のための企画書を考える。

チーム化の前に再確認

まず、企画を考えていく前に、「ひとり広報」のメリットとデメリットを押さえておこう(図1)

図1 ひとり広報のメリット・デメリット

メリット

●意思決定が早い

●広報活動の全体像を把握しやすい

●責任の所在が明確

●一貫性のある広報対応ができる

●経営トップとの関係が近い

デメリット

●常に忙しい(人手が足りない)

●戦略立案から現場対応まで業務幅が広すぎる

●広報活動が属人的(個人判断)になりがち

●遂行できる広報活動が限られる

実際に「ひとり広報」の広報担当者と話をすると、最初に「常に忙しい(人手が足りない)」ことを課題として挙げられることが多い。さらに、忙しいことの原因でもあるのだが、広報戦略の立案から実施まで、業務の幅が広くて困っているとおっしゃる方もいる。

「ひとり広報」の場合、まだ創業間もないベンチャー企業の場合や、一般消費者との接点を持たない、いわゆるBtoB企業であることも多い。こうした企業では「年間計画の作成」という戦略立案から、プレスリリースの作成、メディアの取材対応、SNSの運用など⋯⋯幅広い業務を「ひとり」で対応しなくてはならない。

そして担当者が時間に追われると、多くの場合、業務が「属人的(その人がいないと成り立たない状況)」になりがちだ。結果として他部署などからの協力を得られにくくなるということにもなる。

こうして広報活動が円滑に行えない場合、「広報体制を強化しよう」という話になる。

しかし私のこれまでの経験上だが、「ひとり広報」が急にチーム制になると、「デメリット」は解消される一方で、「メリット」についても失ってしまうケースが本当に多い。

また単に2人から5人へなど人数が増えただけであれば大きな問題にはならないが、「ひとり広報」から「2人広報」へと、個人業務からチーム制へと変わった際には、メリット以上に大きなデメリットがあるケースもあった。チームをつくる上では、こうしたリスクを理解しておきたい。その上で、どんな点に注意して「企画書」を書けばよいか考えていこう。

視点1
増員による付加価値・貢献度を示せるか

企画書の重要ポイント

「2人広報」になった場合には、どのような「メリット」が考えられるのか?企画書ではこの点が最も重要なポイントとなる。この時に考えなくてはならないのは、追加される「ひとり」の新たな役割だ。

注意したいのは、単に業務分担の詳細を書けばよいわけではないということだ。企画書には「2人広報」になった場合の新たな「チームミッション」が書かれていなければならない。増員により、「ひとり広報」の時と比べて、どういった新しい付加価値(相乗効果)が生まれるのか。会社全体にどのように貢献できるのか。こうした展望が大切だ。

ここがポイント

「2人の業務分担がどうなるか」ではなく「新たな貢献」(チームミッション)は何か」

人手不足だけだと説得力が足りない

これまで「ひとり広報」で担ってきた広報業務を「手が足りない」という理由だけでは、広報担当者を2人に増やすという増員計画にはつながりにくい。どこの部署でも常に人的リソースは不足しているからだ。

もちろん「忙しかった」「残業が多かった」など、「ひとり広報」の弊害もあったかもしれないが、安易に強調しすぎると、「もっと効率よくできなかったのか?」「不要な業務があるのでは?」といった、予想外のフィードバックが他部署や役員会などから返ってきて戸惑うこともある(図2)

図2 広報担当者を増員する理由

○良い例

●SNSアカウントを新たに開設しデジタル分野を強化するため

➡主にデジタルPR担当者の増員

● 社員数増加に伴い、インターナル広報(社内広報)を強化するため

➡社内広報担当者の増員

●プレスリリースの発行が中心の活動からメディアリレーションズを強化するため

➡メディアキャラバン(メディアプロモート)担当の増員

×NG例

●広報担当者の業務(残業)が多いため

〈予想されるフィードバック〉
「現在の働き方に問題があるのでは?」
「やらなくてよい作業が多いのでは?」
「増員なしでも行える他の方法はないのか?」

●取材現場が回らない(同時に複数対応しきれない)ため

〈予想されるフィードバック〉
「無理に取材を入れなくて良いのではないか?」
「現場社員に取材対応は任せればいい」

●資料作成(クリッピング)や社内調整業務が多いため

〈予想されるフィードバック〉
「雑務はアウトソースできないのか?」
「全ての業務が本当に必要なのか?」

今日では、多くの企業が広報部門の人員増強にはポジティブであり、投資に見合う将来のリターン(ROI)さえ明確であれば、人材投資を惜しまないという空気を日増しに感じる。しかし、単に「増員したい」「人手が足りない」では、どうしても企画書としての説得力に欠ける。

組織の中長期の経営戦略と連動させる

増員の提案(企画書)と合わせて「新たにどういう付加価値を生み出すための増員なのか」を明確に設定する必要がある。中期経営計画など全社的な長期戦略と連動した増員計画を行うことで、円滑に社内承認が進むケースが多い。

視点2
業務分担を明確にする

「ひとり」から「2人」へのプロセス

「2人広報」に向けて、企画書上の「目的」がある程度明確になったら、次に新しい人材が、「戦略」「戦術」「作業」のいずれのレベルの業務を行うのか(あるいは全て責任を持つ管理職なのか)、採用者のレベルを明確にしたい。

図3のような割り振りであれば、新たにBさんが社外向け広報の担当として加わることで、これまでひとりで広報活動を担ってきたAさんは長期計画などの「戦略立案」に力を入れることができることが分かる。

図3 担当者の役割の明確化

また、この業務は必要に応じて役員会への出席や、経営トップとのコミュニケーションなど社内業務が欠かせない。実質的にはマネジメント職が中心になる。合わせて、これまで手薄だった「社内PR」を強化することも可能であると見えてくる。

一方、新たに加わるBは、主に社外に向けたPR活動を担当する。(広報経験や社歴がまだ浅いという前提だが)広報上欠かせない情報共有のため、資料作成や掲載記事のクリッピング作業も担当する。こうして、担当を明確にしていくことで、広報マネージャーAと広報スタッフBの「2人広報」の体制が確立するのだ。

「3人以上」のチーム体制をつくる場合

では、「ひとり広報」から「3人以上」の体制へとチームを拡大する時には、どのように考えればよいか。ポイントは広報業務の「範囲」と「重なり」の調整だ。

気をつけたい点は、「広報業務」という言葉が意味する範囲。特に中小企業やベンチャーの場合、大小はあるが「広報業務」という言葉に「広告出稿」に関連した業務を含む場合と、含まない場合がある。

また、社長取材の対応や決算発表の資料準備など、いわゆる「企業(ブランド)広報」のみを広報業務と呼んで、(フリー)パブリシティのみを広報業務として扱う企業では、商品販促に関連したマーケティングPR活動は、ネット広告の出稿などとあわせて「マーケティング部門(あるいは宣伝・販促部門、営業部門)」が担当しているケースも多い。

広報チームを新たに立ち上げる際に、まず気をつけるべきは、新しい「広報部門」には具体的にどういった業務内容が期待されているのかという点だ。企画書内ではこうした業務内容について網羅する必要がある(図4)

図4「広報業務」内容の定義(一例)

狭義の「広報活動」

●社長インタビュー取材

●プレスリリース発行

●決算発表(IR部門、財務部と協業)

●危機管理広報(法務部、総務部と協業)

一般的な「広報活動」

上記「狭義の広報活動」に加えて

●社内向け(インターナル)広報─狭義では総務・人事部が担当

●採用広報─狭義では人事部が担当

●商品PR─狭義ではマーケティング・販促部門が担当

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