「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない⋯⋯」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
一人前の広報を育てるために
今回は、広報部門を強化するためにどういった研修活動を行っていけばよいのか。広報部門の研修のための企画書について考えたい。研修実施を目的とした企画書なので、業界や業種、企業規模を超え、あらゆる企業の広報担当者にとって必要な「研修プログラム」の企画を前提として考える。
一般的な広報部門の行う活動は、大きく「外部向け(アウター)」「内部向け(インターナル)」に分類できるが、どのカテゴリも、便宜上、❶「戦略立案」(マネジメント)と❷「施策実行」(担当者)の2つに分けると、研修対象者を決める上で分かりやすいだろう。学ぶべき項目(ジャンル)の設定から、対象者、目的の設定、スケジュールの立て方など、広報育成研修に必要な準備について学んでいこう。
視点1
強化したい領域を整理
何を研修するのか?
まず、広報担当者が学ぶべき、項目(ジャンル)を書き出してみた(図1)。
戦略立案に当たる項目はマネジメント(管理職)などの中・上級者向けとなる。一方、プレスリリース作成などの施策実行に直結する内容は現場責任を持つ広報担当者向け研修といえる。もっとも一概に言えないのは、例えば「危機管理」「グローバル広報」などは、インターナルにもアウターにも関連し、「戦略面」と「施策面」も混在する。また「BtoB広報」や「採用広報」の場合は「誰を対象(ターゲット)とするか」の決定は、戦略面と施策面の両面において重要となる。どちらかに分類することはできないので注意が必要だ。
ピンポイントで強化したい内容がすでに決まっている場合には、カテゴリごとに最適と思われる専門家や研修支援を行う団体を探すことになる。多くの場合90分から2時間程度を1回の講座(1コマ)とし、研修を行う団体や講師に依頼することになるだろう。
既存の内容ではなく、どうしても自社のビジネスモデルや社風に特化した研修内容にカスタマイズしてもらいたい場合には、講師や研修を行う団体と早めに研修内容と諸条件について相談が必要になる。
同じテーマで複数の講師が研修を行う場合
講師陣が数名で1日かけて集中講義を行うケースもある。こうした形での実施は、ひとりの講師では幅広い研修内容を網羅的に提供できない場合などには有効だ。例えば「コーポレートブランディング」のようにテーマが意味する内容が幅広い場合には、講師ごとに切り口を分担することで研修内容はさらに深まる。
また、研修を受ける社員の側の部門や職種にバラツキがある場合にも複数の講師による研修は有効だ。例えば、同じ「商品PR」に関する研修であっても、パブリシティ担当、店舗販促担当、デジタルPR担当など、担当業務が異なれば必要とする知識や事例も異なる。それぞれの担当者の興味に合わせて、講師ごとに研修のポイントを調整することもできる。
他にも、特定企業の実務経験が長い講師から話を聞く場合には、講師陣のこれまでの実務体験に研修内容が偏ってしまいがちになる。実務に根ざした広報活動の経験は貴重な学びにつながるが、複数の講師陣から話を伺うことで、学びに偏りがなくなる。また事例を多く共有してもらうこともできる(図2)。
図2 複数講師によるセミナー実施のメリット・デメリット
メリット
●単独講師よりも幅広い範囲について抜け漏れなく学べる
●社員の職種や属性、興味関心が多岐にわたる場合にも対応できる
●講師の経験に基づく偏った内容や事例紹介が和らぐ
デメリット
●研修全体のテーマ性(統一性)はオムニパスの場合は保ちにくくなる
●類似したテーマの講演だと、講師同士で内容がかぶる場合が出てくる
●特定の内容に柔軟にフォーカスしたり、カスタマイズしたりが難しくなる
●研修費用が高くなる
視点2
課題の把握と端的なテーマ・目的の設定
チームの現状把握から始めよう
企画書を作成する上で必ず必要なのは、現状の広報活動の把握と目標設定だ。自社の広報活動・広報チームに、今現在どのような課題があるのかを明確にしたい(図3)。大事なことは、どこかのタイミングで他部門などからもヒアリングを行うこと。「研修」というのは企業にとっての「投資」の意味を持つ。社内で企画書を通すためにも、作成に際して客観的視点での現状把握と分析が重要だ。
図3 現状把握のためのチェックポイント
□現在どのような課題があるのか、いつから生じている課題か
□広報活動のどのプロセスで生じているのか
□どこのチーム(誰)に、どうして生じている課題なのか
□担当者や他の部署の社員からはどのように言われているのか
□現状のままだとどういった問題につながるのか
□どのような解決方法を研修に求めるか
次に、研修のテーマと目的を決める。実際の広報課題は複雑で一言で説明が難しいことも多いが、「社内報制作のための企画の立て方・取材方法を習得するセミナー」「オウンドメディアの効果測定を学ぶための講習」など、企画書上に記載するテーマや目的はシンプルなものが好ましい。
研修テーマは広告用のキャッチコピーではない。端的で分かりやすい表現を心がけたい。実際に、この研修テーマが日常の広報業務に携わらない社長や上司などからは理解しがたい表現内容だったために、部門にとって重要な研修だったにも関わらず、予算の制約などから後回しになってしまった例などを聞く。
直接関係しない社員をどこまで含めるか
広報研修の企画を立案する際に意外と難しいのは、研修の参加者をどうするかだ。最終的には、人数、部署(役職)、年代(年次)などを明記することになるが、ポイントは研修テーマに直接は関連しない社員をどこまで含めるかだ。
以下、「コーポレートブランディングの向上について基本知識を学ぶセミナー」の場合を例に、2つの案(図4)について考えたい。
リアルか?オンラインか?
最近は、いわゆる座学であればオンラインを活用することで、ほぼ参加人数による制約はなくなってきた。ただ、研修を企画する上で、講師による一方的な(ワンウェイ)講義よりも、一部ワークを取り入れるなどリモート研修ならではの特徴を活かしたインタラクティブな要素を取り入れると参加者から好まれる傾向がある。または質疑応答の時間を充実させるなど、当日の運用面での工夫を行いたい。
一方でワーク型(実際にグループワークなどを行う)の場合、対面の場合は1チーム最大で8人程度が限界だ。特にコロナ禍での“密”を避ける配慮など会場選びは時間にゆとりをもって慎重に行いたい。
リモートを活用することで会場の問題は回避できるが、実務研修を通じて広報担当者同士の一体感を高めていくという研修目的を考慮すると、一概にリモートが便利だからとも言えない面もあるので、この点には注意しよう。
視点3
企業としてコストを考える
研修予算の考え方
研修のテーマ、目的、参加者(人数)、形式(対面かリモートか)が決まったら、具体的な講師や運営団体に当たる前に研修予算の大枠を決める必要がある。研修が単発なのか、連日なのか、あるいは年に何度か機会を設けるのかにより、社内での予算の申請の方法も異なってくる。
継続した研修を行うことで部門の広報スキルやPRパーソンとしてのマインドを強化していこうと考えている場合には、年間を通じた研修予算を、ざっくりと予算化しておくことで、講師を探す際の予算配分にもメリハリが出せるようになる。