「〇〇してください」「〇〇禁止」。そう呼び掛けても、人はなかなか行動を変えてくれない。それはなぜか。行動科学のインサイトを使って広報実務を点検します。
イソップ寓話の『北風と太陽』。北風と太陽が旅人の外套を脱がそうと勝負します。北風が外套を吹き飛ばそうとしても、旅人からは抵抗されるばかり。続いて、太陽が照らしつけると旅人は自ら外套を脱ぎ、太陽が勝利する。「無理強いするより、自らそうしたくなるように後押しする」。ナッジなどの行動インサイトに基づいた行動介入の基本的考え方を表す物語です。
ナッジを実務に活かすには
とはいえ、この寓話のように「後押しするのが人を動かすコツですよ」と言われても、実際にどうナッジを設計したら良いのかいまいち分からない。これが実務家の素直な声であるように思います。何しろ行動科学の知見は膨大かつ複雑です。理論的な精緻さだけでなく、実務に耐えうる使い勝手の良さがほしいところです。こうしたニーズを受け、ナッジを活用するフレームワークが様々な組織から提案されています。
もっとも代表的なのが、英国の行動インサイトチームが開発した「EAST」です*1。このフレームワークではナッジのエッセンスを「Easy(簡単に)」「Attractive(魅力的に)」「Social(社会的に)」「Timely(タイミングよく)」の4つにまとめています。ナッジの基本的な切り口を整理したものと考えればよいでしょう。
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