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広報のための行動インサイト

「モノで釣る」呼び掛けにはご注意を──報酬の副作用

山田 歩(滋賀県立大学)

「〇〇してください」「〇〇禁止」。そう呼び掛けても、人はなかなか行動を変えてくれない。それはなぜか。行動科学のインサイトを使って広報実務を点検します。

近年すっかり定着した「ふるさと納税」。お得な返礼品がもらえることに注目が集まりがちですが、新型コロナの影響を強く受けた2020年度は、「コロナ禍で苦しむ地元の支援に使う」地元自治体への寄付が増えたそうです*1。自分が住む自治体へのふるさと納税には返礼品がつきません。未曽有の危機を前に、地元や社会全体を思いやる寄付が広がったのでしょう。

*1 “ふるさと納税に変化の兆し 都民「返礼品目当て」より「コロナ対策に」世田谷区は寄付額最高に” 東京新聞2021年8月2日

かく言う私も当時、コロナ被害に関する支援を行えるふるさと納税サイトを訪問したのですが*2、このとき自分の「支援したい気持ち」が揺らぐ経験をしました。サイトでは被害事業者や子育て家庭などが置かれた悲惨ともいえる状況が生々しく紹介され、切実なトーンで「新型コロナウイルスで苦しむ方へのさまざまな支援ができます」と寄付が呼び掛けられていました。

*2 冒頭の例と異なり、地元自治体ではなく全国の自治体に寄付できるサイトに訪れました。

しかし、寄付メニューのページに飛んだ私は思わず苦笑してしまいました。そこには「市場直送!厚切り鮭切身10切セット」「至福のハーブティー」「豪華!カニ入り海鮮福袋」⋯などの返礼品が並んでいたのです。「いや、返礼品が欲しいわけじゃないんだよなあ」と、純粋に支援したい気持ちの持って行き場を失ってしまいました。

経済的インセンティブの罠

寄付したら返礼品。アンケートに答えたらプレゼント。個人に特定の行動を促そうとするとき、経済的インセンティブを用いることは少なくありません。しかし、行動科学の知見からは、人間は期待通りに動くとは限らないことが分かっています。

もともと好きでお絵描きを楽しんでいる子どもたちに、賞をちらつかせると、お絵描きが自発的にされにくくなります*3。もともと保育園に迷惑をかけないように定刻に子どもを迎えにきていた保護者たちは...

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