メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は信州大学の佐藤広英ゼミです。
DATA | |
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設立 | 2012年 |
学生数 | 3年生4人、4年生3人 |
OB/OGの主な就職先 | JR東日本、イープラス、伊東屋、宣伝会議、福井大学(事務職)、静岡銀行、法務技官(心理)、長野市役所、松本市役所など |
信州大学 人文学部の文化情報論分野で教鞭をとる佐藤広英准教授のゼミ室では、2016年からJAF(日本自動車連盟)長野支部と共同で、地域(信州)の魅力的な観光プラン、PRプランを設計するプロジェクトを行っている。
地域PR動画の可能性を探る
プロジェクトは、JAF長野支部側からの打診から始まった。会員の高齢化が進んでおり、若年層へのアプローチを大学生ならではの視点から考えてほしい、との相談があったのだ。最初の1、2年は観光プランの企画などがメインであったが、「若年層」へのリーチ方法として動画の可能性を感じ、近年はPR動画の制作を進めている。
「観光や自治体のPR動画を見ていると、観光情報だけが2、30分長々と流れているものがほとんどで、改善の余地を感じていました。動画の利点を活かし、企画を工夫することで“共有したい”“実際の行動につながる”訴求ができると考えました」(佐藤准教授)。
動画制作は前期の約半年をかけて行う。まず4月は動画やSNSの基礎知識、観光に関しての心理学的分析といった座学からスタート。5月末のJAF長野支部担当者の前でのプレゼンに向けて、企画を急ピッチで考えていく。そして6月、7月で撮影・編集。8月半ばには完成・公開と、短時間で仕上げていく。
「実は私もこのプロジェクトを進めるまで動画制作は全くの初心者でした。SNSやインターネット使用における、視聴側の心理の研究は長年行ってきましたが、実際つくる側となると簡単にはいきません。4年ほど続けてきて、ようやくノウハウもたまってきましたし、バズりやすい“キーワード”や“テーマ”の傾向、サムネイルの工夫なども学生たちと分析してきたことで、年を重ねるごとにレベルアップした動画になっていると感じます」と佐藤准教授は話す。
目指せ!YouTuber!
2020年は「YouTuberを目指そう」を合言葉に、動画を5つ制作。中でも長野の方言をテーマにした動画は反響が大きかったという。「その土地にいたら方言って気づけないんですよね。地元の人にとっては身近に感じますし、外部からは目新しく面白い。“方言”というテーマがパワーワードだと分かりました。再生回数だけではなく、地元の人にも外部の人にも関心を持って見てもらうにはどうすればいいか、社会とのつながりが感じられるテーマは何か。アンテナを広げて、学生たちにはPR施策をつくっていってもらいたいです」(佐藤准教授)。
地域への恩返しにも
コロナの影響でしばらくゼミ活動も中止となっていたが、2021年に入り少しずつ再開。最近では、JAF長野支部、諏訪観光協会と連携し、「信州大学生presents!諏訪ドライブスタンプラリー」をゼミ生が企画。コロナ下での観光をテーマに、諏訪周辺の計10カ所でスタンプをスマホ上で集めると、諏訪のグッズや名産品などが抽選でもらえる仕組みをつくった(2021年4月15日まで開催中)。
「長野県は観光名所がたくさんあります。観光が資源です。キャンパスをこの土地に置かせてもらっているなかで、微力ですが、ゼミでの活動を通して、少しでも長野県を好きになってもらえる人が増えたり、地域活性化のお手伝いができればと考えています」(佐藤准教授)。
心理学をつかった分析でSNS以外の表現方法を探したい
佐藤広英准教授の専門領域は、情報コミュニケーション学・社会心理学である。特にネット社会における利用者のトラブルやストレスなどの研究に精通している。
「SNS上でなぜトラブルが生じるのかのメカニズムや、どのような人がトラブルに遭いやすいのかについてずっと研究を行ってきました。しかしSNSが乱立してきた中で、今後もっと違う表現方法は必ず生まれてくることでしょう。私がこれまでやってきた研究を活かしつつ、観光PR、地域活性プロジェクトとしての表現でもっと面白いことができないか模索中です」。
今後も自身の研究やゼミでの活動を通して、地域に貢献していければ、と意気込みを語ってくれた。