メディアと暴力組織の癒着地に墜ちた暁テレビの信頼〈前編〉
【あらすじ】
暁テレビ情報局次長の美波徹のもとには、毎日何通もの内部告発や情報が届く。しかし、そのほとんどがガセネタだった。ある日、暴力組織・緑星会の組長らが写った集合写真とメモが届く。そこには暁テレビ常務の伊佐山薫と執行役員の風間武比古の姿もあった。美波は部長の富樫賢治に伝え、専務の泊佐斗司に報告する。
送られてきた写真の真偽
窓外(そうがい)に目を向けると煌びやかな灯りが広がっている。通りを覆いつくしたクリスマスイルミネーションの人工的な美しさに思わず足を止める。腕時計に目を落とすと日付が変わろうとしている。夜が深くなっても車道には車が列をなし、歩道では恋人同士が手をつなぎながら嬌声をあげている。
ここ一カ月、毎日目にしてきたはずの光景だったが、見た記憶がない。永瀬誠が廊下から見下ろしていると「ようやく終わったな」と背中から声がかかる。「専務」「これからが大変だが……」泊佐斗司は疲労が蓄積した表情を隠さない。
日ごろは“悪”を追い続けるマスメディアが、同業者に糾弾されただけでなく視聴者の厳しい眼に晒され続けた。三時間に及んだ記者会見で終始説明していたのが泊だった。暁テレビの会見にはテレビ、新聞、雑誌、インターネットメディアをはじめメディアと呼ばれるほぼすべてが襲来した。メディアがメディアに責められる、初めて見る異様な光景だった。
「なんてことしてくれたんだよ」非難の声がそこかしこから聞こえてきた。会見が終わったとき、会場に居合わせた全員が敗北感を味わっているようだった。真実を伝えることが我々の役割と豪語してきた暁テレビにとって、視聴者だけでなく同業者までをも裏切る結果となった。記者会見中、社長とともに泊は頭を下げ続けた。
窓ガラス一枚を隔てて、陽と陰がはっきりと分かれている。永瀬は皮肉なものだと苦笑してしまう。「どうした?おかしなこと言ったつもりはないが」肩を並べた泊が穏やかな声で訊いてくる。「因果応報だなと思いまして……」「暁テレビの報道など誰も信用してくれないかもしれないな」これまで政治や企業の不祥事を先頭きって追及してきたと自負するテレビ局の信頼を地に墜とした罪は計り知れなかった...