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広報担当者の事件簿

自然災害への備えは状況判断と自制心

佐々木政幸(アズソリューションズ 代表取締役社長)

    迫り来る巨大台風の危機命を守るための危機管理〈前編〉

    【あらすじ】
    東海地方のI市で3年前から開催されている「エレガンスガーデンフェスタ」。夏から秋にかけて鮮やかに咲き誇る花々を楽しむ屋外イベントの広報を務める駿河広告の松田洋一。SNSでの広報活動が実を結び、来場者数は15万人を超えていた。会期終了まで残り1カ月。ここ数年で最大といわれる台風が近づいていた。

    答えは、現場にしかない

    色鮮やかな絨じゅう毯たんが一面に敷かれているようだ。季節の花々が幾重にも重なりながら咲き誇っている。

    今年の冬は気温の高い日が多かったから、花の色づきは例年と比べあまりよくないと管理事務所の色川祐樹から聞いていた。鮮明に残っている去年の鮮やかな風景は思い出さなよう、期待せずに車を走らせてきた松田洋一だったが、着いてみると、「いやー綺麗ですね、今年も!」と思わず感の声をあげた。「さすがですね」と色川に親指を立てる。

    「なんとか間に合いましたね」ヒマワリ、キキョウ、ハナショウブ、グラジオラス、アサガオ・・・・・・、二万三千坪の敷地に七〇品種、二三万株の花々が今年も咲いてくれた。人間の背丈もあるヒマワリをはじめ水辺に咲いたハナショウブ。暑さにも負けることなく凛とした姿をみると顔がほころんでしまう。すべての花が、早くみてほしいと訴えているようだ。圧巻としか言いようがない。

    「それが我々の仕事ですから」色川はにべもない。愛想のない会話にはもう慣れた。この時季になると毎週のように「エレガンスガーデン」に通って三年が経つ。今年は七月中旬から九月いっぱいまで二カ月半の通勤になる。「先々週の台風でもなんとか立ち直らせましたもんね」松田は褒めたつもりだったが色川は反応を示さない。かわりに眉間に皺しわをよせる。

    今年は例年以上に台風が多い。先々週も雨とともに風速二五メートルの強風が吹き荒れた。台風が過ぎた翌日、足を運んだ松田が目の当たりにしたのはなぎ倒された花々だった。呆然と眺めるしかなかったが、麦わら帽子に作業服を着込み、手入れをする職人たちの姿が目に飛び込んできた。会話をしている者は誰もいない。黙々と丁寧に作業を続けていた。

    あれから二週間、ここで咲いていることが当たり前のように去年と同じような色彩がよみがえっている。「主役がいなければ我々は必要ないんですよ」花々に目をやりながら色川がつぶやく。松田とは目を合わせない。"お前は何も分かってないな"と言っているようだった。

    四年前、東海地域に位置するI市の「遊休地を活用したイべント等の提案」事業に会社が応募した。市民はもちろん県外からの観光客誘致を目的とする「エレガンスガーデンフェスタ」と銘打ったイベント提案をおこなった。

    I市を中心に広告や広報の請負業務を展開する駿河広告株式会社。創業から五〇年を過ぎた老舗代理店のひとつで、社員は七三人。今の社長で四代目になる。三代目までは創業家から就いていたが後継者がおらず、三年前に初めてプロパー社長が誕生していた。

    広告業務部と広報業務部に分かれる実働部隊は総勢四七人。それを束ねていたのが現社長の小木文一郎である。小木は広報業務部歴が長く、若いころからI市の仕事を競合で取っていた。I市からの信頼も厚く、イベントなどの相談も持ちかけられるほどだった。小木が専務時代に請け負ったのが、松田が担当しているエレガンスガーデンフェスタだった。

    「うちがやる意味あるのかなあ」イベントの話がもちあがったとき、部長の籠橋裕也は愚痴をこぼした。「俺はやりたいですよ。やってみないと分からないじゃないですか。評価はお客さまがしてくれますよ」「お前、なに達観しているんだ?」「本心を言ったまでです」松田が柔和な顔で応じる。

    「真夏でしかも台風の時季だぞ。事故でもあったらどうすんだよ」「何をやるにもリスクはありますよ。まずはやってみませんか」乗り気でない籠橋をなだめながらの始動だった。

    ここ数年、毎年のように起きている自然災害は各地に甚大な被害を負わせていた。エレガンスガーデンフェスタも例外ではなく、一昨年、昨年とも台風の被害を受けた。だが、職人の尽力で最小限に食い止めている。来場者に被害がないことが何よりだった。

    「答えは、現場にしかない」が小木の口癖である。松田はその言葉をいつも頭にとどめていた。色川にお前は何も分かっていないと思われようが、現場にしか答えはないんだと自分に言い聞かせた。

    植栽は、梅雨に入る前から始まる。オープンまでの変化の様子を「今日のエレガンスガーデン」と題してツイッターやインスタグラムで毎日更新し、今ではフォロワーは三万人を超えている。新聞やテレビなどの旧態依然としたバイアスのかかるメディアはあてにしていない。来場者に直接届くSNSが効率よく効果的だと判断した。新聞やテレビはオープン後に会場で対応する。

    来場する市民、わざわざ観光で来てくれた家族連れやカップルを大切にしたかった。何より二三万株の絨毯を敷いてくれた職人の誇りを、来場者にそのまま感じてほしかった。「素人は素人なりに、受け手の側に立った情報発信を心がけよう」松田は初回から自分なりのスタンスを決めていた。

    イベント直前に記者発表と称しメディアに情報発信しても、発信側の想いは伝わらない。来場者には...

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