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インクルーシブ発想の用語見直し

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ

インクルーシブ発想の用語見直し
IT業界各社が相次いでソフトウェア用語の見直しを発表している。プログラミングで使われる「マスター/スレーブ」などを中立的な言葉へと変更を進めているという。

きっかけとなったのは「Black Lives Matter(BLM)」だった。2020年5月、黒人男性が抵抗できない形のまま警察に押さえつけられて死亡した事件の抗議行動で、米国から世界へと広がった運動だ。BLMは企業にも問題への姿勢を問うた。

これらを背景にして、Twitter、Microsoft、Linux、Android、Appleなどがプログラミングに使う用語の見直しを進めると次々に発表した。具体的には、「マスター(主人)/スレーブ(奴隷)」は「プライマリ/セカンダリ」、「ブラックリスト/ホワイトリスト」を「deny(拒否)リスト/allow(許可)リスト」などと代替案を示している。どの単語を使うかは開発者に委ねるが、いずれにしても中立的な言葉を選ぶよう強く求めていると言う。

インクルーシブという発想

これは業務の中で長らく使われ続けてきた差別的な意味を含む表現を変更していくということである。人種、民族、宗教などを超えて公平・平等に扱うという意味のインクルーシブという発想で見直すのがポイントだ。

ただ、中には否定的な見方をする人たちもいる。これで差別撤廃につながるわけではなく、単に自分たちの社会的な評判を高めることが目的の「美徳シグナリング」にすぎないという声だ。

それでも、多様な労働力や文化を受け入れられる組織にするために、こうした活動は広がっている。例えばグーグルは2020年、製品のインクルージョン(受容性)とダイバーシティ(多様性)に寄与する社員が、社内全体で2000人以上いると発表している。そのチームは製品設計の段階で、性別、年齢、人種、障がいなどを考慮するためにつくられたという。Instagramもエクイティ(公平性)チームをつくり、9月現在でダイバーシティ&インクルージョン担当取締役を募集している。

国際的な動きは用語の見直しにとどまらない。これまで白人中心と批判されてきたアカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは9月、2024年から作品賞の選考に新たな基準を設けると発表した。たとえば主要な役にアジア人や黒人、ヒスパニック系などの人種または民族的少数派の俳優を起用することや、制作の重要ポジションに女性やLGBTQ、障がい者が就くことなどを挙げる。

企業の社会的責任のひとつ

日本企業でも主に障がい者のインクルージョン推進を発信しはじめているが、本格的な動きはこれからだろう。

発表時の扱いのレベル感に苦慮する場合には、業界で協力して進める手もある。重要なのは、こうした機会を逃さず、後手に回らず、タイムリーに発信することと、差別を助長するものを後世に残さないという姿勢だ。これは長期的な意味を持つ動きであり、埋もれさせるべきではない。多様な利用者がいるから変えるのではなく、多様な利用者が気持ちよく使える価値を提供するために変える。それが企業の社会的責任(CSR)ではないだろうか。

社会情報大学院大学 特任教授 ビーンスター 代表取締役
鶴野充茂(つるの・みつしげ)

社会情報大学院大学特任教授。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/

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