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「ひろしまタイムライン」 SNSで伝える75年前の今日

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ

SNSで伝える75年前の今日
NHK広島放送局が「もし75年前にSNSがあったら」という設定で、当時を記した日記をもとにTwitterで配信。原爆前後の生活をリアルに感じられると反響を呼んでいる。

戦後75年を迎える今夏、NHK広島放送局の「1945ひろしまタイムライン」という企画が注目を集めた。実在した広島在住の3人が書いた日記をもとに、1945年の出来事を2020年のその日にTwitterで配信するものだ。

中国新聞記者の一郎32歳、妊婦の主婦やすこ26歳、中1の少年シュン13歳の3人のアカウントから、その日の様子が毎日つぶやかれている。3月下旬にスタートし、原爆が投下された8月6日前後にはTwitterでトレンド入りするなど注目度もピークを迎えた。

世代を超えて伝え続ける難しさ

毎年8月になるとメディアは戦争特集を組み、平和のありがたさを伝える。大切なこととはいえ、ひとつのメッセージを伝え続ける難しさは、広報経験者なら誰もが理解するところだろう。当時を知る人が少なくなる中で、2020年は75年の節目。広島は原爆投下後に「75年間は草木も生えないだろう」と言われたまさにその75年だ。そんな中、今の瞬間をやりとりするTwitterに、当時の日記を持ち込んだのは従来の歴史教育にはなかった手法だった。

報道によると、この企画は「当時の広島の人々が何を感じていたのか、同世代の若者に追体験してほしい」と20代の女性ディレクターが提案。広島在住・出身の11人がTwitterを担当しているという。たとえば中1シュンくんのアカウントは10代の5人が担当し、20kgの米袋を運んだという日記を見てその重さの米袋を運んでみたり、疎開先から歩いたという記述をもとにその道を歩いてみたりして理解した上で表現を工夫しているそうだ。つぶやきに興味を持った人は、特設サイトで日記の原文を読むこともできる。

メディアの企画を他社が取り上げるのは意外とハードルが高いが、複数メディアがこの企画を紹介している。当時の新聞記事がそのままの形で投稿され、また複数の人物の目で当時の様子が立体的にイメージしやすくなったつぶやきがTwitterのタイムラインに流れ込むことで、時間の流れを継続して追え、まさに追体験しているかのように3人のつぶやきに声をあげるなど、多くの人が感情移入している。

SNSで前後の記憶まで再現

多くの人が驚いているのは、原爆投下や終戦が単なる出来事ではなく、その前後にも時間の流れがあり、毎日の生活があるという、考えてみれば当たり前の事実に気づくことだった。歴史の授業では、その時に起きたことに力点が置かれ、前後の時間の流れを想像することは容易ではない。実在の人物の日記とTwitterの組み合わせによってそれが鮮やかに描き出されたことで大きな反響につながったと考えられる。

時間の流れを伝えるのにTwitterの特性が活きた。SNSと一口に言ってもそれぞれ特性が異なるが、これまでうまく伝えきれていなかった側面を見せるのに長けたSNSがあるかもしれない。外出自粛やリモートでネット利用が増える中、テーマが何であれ、今までとは異なる伝え方検討の参考にしたい。

本記事は8月11日時点の情報をもとに執筆しています。

社会情報大学院大学 特任教授 ビーンスター 代表取締役
鶴野充茂(つるの・みつしげ)

社会情報大学院大学特任教授。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/

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