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IRの学校

リモート下の決算発表

大森慎一(Prop Tech plus 監査役)

広子たちはIR担当として、忙しくも刺激的な日々を送っている。新型コロナウイルス感染症対策に追われながらの、決算作業と決算に関する説明会などの準備。見通しが立てにくい状況下で社の評判を守る、適切な情報開示について大森先生に解説してもらった。



広子:こんばんは。

大森:こんばんは。連休はどうしていた? STAY HOME?

広子:のんきなこと言ってますね。大変でしたよ! 決算作業や決算に関する説明会などの準備はなんとか期限内に間に合いましたが。

大森:ごめん、ごめん。事前の話では、あまりコロナの影響がないという話だったと思うけど?

広子:そうなんですよ。当社は原材料の確保も十分で、国内拠点だけですし、比較的コロナの影響も限定的だったので他人事だったのですが……最終的にドタバタしてしまって大変でした。

大森:そうか、それはお疲れさまでした。

広子:例年だと決算後の代休での旅行を、モチベーションにできるのですが今年はそうもいかず……。

大森:はは、それはご愁傷さまです。

決算延期のハードル

東堂:当社は予定通り発表できましたが、結構発表延期の会社がありますね。

大森:そうだね。当初は、新型コロナウイルス感染症対策で、海外の生産拠点が止まり、復旧のめどが立たないなどの「業績への直接の影響が見極めきれない」「次年度以降の見通しが立たない」といった理由が心配されていたけど……。実際は、決算作業自体が間に合わないといった理由がほとんどだね。

東堂:そうですね。感染症対策の要請に従ってリモートワークにした結果、決算作業が遅れることとなりました、といった論調のものも増えていますね。

広子:言い訳っぽいけど実際そうなのよね。とことん実感したわよ。

東堂:4月の中旬に、金融庁が「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」を公表し、それを受けて、東京証券取引所が「決算発表日程の再検討のお願い」を発表したので、延長せざるを得なくなってもだいぶ気が楽だったとの声が勉強会メンバーからも聞こえました。

大森:前例主義や横並び意識という変な意識かもしれないけど、特別な事情で個別に判断して決算発表や株主総会の開催を延期「できる」という建付けから、監督官庁などが延期「してもいい」とアナウンスすることで、だいぶ精神的に助かるよね。ましてや、開示布令の改正で、提出期限を一律に9月末までの提出期限としたわけなので、拘泥する理由がないよね。

東堂:そうなんですね! 提出期限自体が延びたんですね。あっ、でも期限が延びたのに、決算発表の延期を次々と公表しているのはなぜでしょうか?

大森:なるほどね。ウェブ会議やチャット形式だと話が流れがちなので、ちょっとまとめるね。

広子:よっ、まとめ名人!!

決算発表は2パターン

大森:合いの手はいらんがな。えっと……まずは、決算発表の話なんだけど、簡単にいうと法定開示と取引所規則による適時開示それぞれの決算発表がある。

広子:有価証券報告書による発表と、決算短信での発表ですね。

大森:そうそう。前者が金商法、後者が取引所規則にそれぞれ基づくものだね。厳密にいうと会社法に基づく開示というのもあるけどね。

東堂:ああ、なるほど。根拠の違いなんですね、2つあるのは。ずっと不思議に思ってました。

大森:そうだね。それぞれの根拠ごとに延期容認の措置が採られたので、それぞれ自社の状況に合わせて対応をしているということだね。では、ここで問題です。根拠以外で2つの開示内容の大きな違いは何でしょうか?

広子:ん~開示内容の違いですか? 短信は監査法人の監査対象外だったり、レビューを受けてない、というのは知ってますが、2つの数字自体にはほぼ違いはないので、速報値と確定値ぐらいに思ってました。

大森:それも合ってるんだけど、普段あまり気にしてないかな?決算短信には、発表される数字が多いのだけど。

東堂:「予想数字」ですか?

大森:正解! 決済短信では、売上高や経常利益などの主要な経営指標や財務指標の見込み数字を公表しているね。

広子:普通に開示しているので、気にしてませんでしたが、確かに違いますね。

大森:この見込み・予想数字の公表は、取引所は「実務慣行」と呼んでいるようだけど、訴訟リスクが高いのではという懸念をよそに、新聞記者など報道機関からの希望だということもあり、長年要請が続いているね。

広子:見込数字の公表は強制ではなく、要請ということですね。「要請」って、なんだか聞きたくない言葉になってしまいましたね。

大森:わはは、そうだね。便利な言葉でもあるけど。で、今回公表される決算短信では、予想数字を発表しない会社が増加している。

東堂:確かに「新型コロナウイルスによるマクロ経済への影響を踏まえ、合理的に予想することができないので」というようなコメントをよく見ました。

大森:今までも、業種的に要請には応じがたいので、予想を開示しない代わりに実績速報を開示するとか、予想に幅を持たせたりというケースはあったけど、今回は影響がどのくらいの期間続くかも分からないから、業種問わず全般に広がっているね。

広子:でも仕方がないですよね。

大森:一方で、有報には「予想数字」そのものはないけど、経営判断の根拠として、経営者による経営成績などの情報を分析した財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況などのいわゆる記述情報が、重要な情報として開示されている。これを企業の業績予想をする上で活用してほしいというわけだね。

広子:なるほど。任意開示であるIR資料をつくる時にも...

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