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IRの学校

感染症対応下の株主総会

大森慎一(Prop Tech plus 監査役)

今年度も変わらず、とあるメーカーでIRを担当している上場広子と東堂証子。新型コロナウイルス感染症対策の緊急事態宣言によって、右往左往する日々が続く。今日も株主総会の開き方に関して、オンライン会議で大森先生に相談を持ちかけた。



広子:こんばんは。聞こえますか?

大森:こんばんは、大丈夫だよ。

広子:新型コロナが原因で、IR活動が大変なことになってますよ。

大森:そうだね。落ち着いて行動したいところだけど、市場は待ったなしで動いているからねぇ・・・・・・。

東堂:さっきまで他社のIR担当の方々とオンライン勉強会の打ち合わせをしていたのですが、「株主総会はどうするんだ」と困っている人がいました。それに対し「ハイブリッド型バーチャル株主総会も可能だよ」とか「継続会を検討したら」とアドバイスが出てきたり。

広子:「継続会」ってなんですか?

大森:会社法に「総会の続行の決議」というのがあり、簡単に言うと総会を2回に分けることができる。最初から2回に分けても、1度目の総会内で決議してもよい。ただし、手続きはちゃんと調べてね。

広子:総会の延期もOKということなのに、2回に分けるんですか?

大森:例えば、役員選任とか配当など、必要なことを先に決めて、影響額の反映が困難な決算承認を後回しにするなんてことが考えられる。

広子:なるほど。では「ハイブリッド型バーチャル株主総会」ってなんですか?

大森:まあ、当初通り開くときの対応策だね。会場に集まる人を減らしつつ、定足数を確保する作戦だね。

広子:面白そうとは思いましたが、流動性の観点からはデメリットが多いオーナー比率が高い当社ですから、株主総会の定足数では困ったことがないんですもん。話半分で流してました。

大森:そうか。元々昔の株式の持ち合いが金融改革などでなくなり、総会担当者の株主集めの苦悩が始まった感じだったんだね。ファン株主の概念やIR型株主総会などの工夫も、広い意味で株主総会の安定的な運営のためといえるね。

広子:株主総会のお土産とか、懇親会とか、株主向け会社説明会などいろいろ趣向を凝らして、株主の参加を促してましたもんね。

東堂:それがこの新型コロナ騒動で逆転して、「株主総会にはお土産を配布しません」「なるべく議決権行使書で対応してください」に変化してますよね。

広子:でも、言い方は別として「株主総会にはなるべく出ないでください」というのは、法的に問題ないのですか?

大森:株主総会の在り方を法務面、実際運用面などから整理していこう。

新しい株主総会の形とは

大森:まず、「ハイブリッド型バーチャル株主総会って何?」ってことなんだけど。経済産業省が2020年2月26日に策定した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」によると、「取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加/出席することができる株主総会をいう」となっている。

広子:なるほど。要約すると、リアルとバーチャルの併用だからハイブリッドってことですね。でも、新型コロナ対策で、ウェブ上で入社式をやったり、オンライン授業をやったり・・・・・・。オンライン飲み会まである時代だから「オンライン株主総会」でいいのでは?

大森:いい質問だね。技術的には当然できる。だけど会社法で、株主総会の招集手続きとして、「株主総会の日時及び場所を定めなければいけない」となっていて、バーチャルだけだと抵触することになる。

広子:えー、面倒ですね。

大森:株主総会のオンライン上などでの開催については今までにも議論されているし、今回の件で社会的要請が強くなるから、見直し機運が高まるんじゃないかな。

東堂:参加と出席は区別されているようですが?

大森:これまたいい質問だね。議決権の扱い、質問、動議の可否などで参加型、出席型と分類されているよ。バーチャルである以上、サイバーセキュリティ対策やなりすまし防止などの本人確認、通信障害対策などが必要になるよね。それに加えて、出席型だと、リアルに出席している場合と同様に質問したり動議を出したりできるよう、リアルな開催場所とオンライン空間の株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることが必要とされる。準備のハードルが少し上がるイメージだね。

東堂:出席型は双方向の担保が必要で、参加型は一方方向で閲覧しているのみなので、多少の障害は認容される、ということですか。

大森:そうだね。参加型でも事前に郵送もしくは電磁的な方法で議決権を行使するので、基本的な株主権利は同じなんだけどね。

会場での新型コロナ対策

広子:いずれにしても、準備することは増えそうですね。

大森:そうだね。具体的な留意点や考え方は経済産業省の「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」に目を通すといいよ。法的な解釈も一緒に解説されているから、いい整理になると思う。

東堂:ハイブリッドを前提に考えると、リアルな場所も用意する必要がありますよね?

大森:そうだね。今回の対策では、総会への出席機会を株主から不公正に奪わない限り、会場に株主が出席していなくても開催可能だということを前提としている。でも、リアルな場所の準備は怠ってはいけない。入場前の検温や体調確認、マスクの正しい着用のアナウンスといった入場前の対応と、一般に密閉、密集、密接の「三密」にならない会場の工夫は必要だろうね。

東堂:三密対策ですね...

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