ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
Twitterの匿名アカウントでヘイト発言を繰り返していた人物が9月、ディー・エヌ・エーのCGクリエーターだと発覚し、批判の声が広がった。同社はこれを受け、ホームページ上で謝罪コメントを出した。
身バレのきっかけは、本人を紹介するインタビュー記事だった。そこに掲載された作品を、問題の匿名アカウントでも以前公開していたのだ。
個人だけの問題ではない
これまでも類似の問題は繰り返し起きている。3月に世田谷年金事務所所長、9月には臨済宗妙心寺派の40代住職、そして10月にも北海道室蘭市立小学校の教頭が、匿名アカウントで差別発言を続けた後に身バレし炎上。各管理組織が謝罪し、処分を下している。
またこの連載でも、2015年に新潟日報の報道部長が同様の問題で注目を集めた事例を取り上げた。ヘイトに対する社会の眼は厳しさを増しており、個人の匿名発言といえども、身バレをきっかけに所属する組織が批判を受け、対応を余儀なくされている状況だ。
今回の事件では、メディアもインタビュー記事を非公開とした。その理由として「編集部は、あらゆる差別についてこれを容認するものではありません」とし、「本記事中でふれられた個人・法人の方々への風評被害を最小限にとどめるためにも記事の公開を取り止めます」とコメントしている。
今回の、メディアで仕事を評価されるような人物であったり、これまでも何人もの要職にある人物が匿名で差別発言を繰り返してきたことを踏まえると、この種の問題はすでに組織のリスク要因と捉えるべきものと言えるのかもしれない。
匿名でも身バレするリスク
特定といえば、アイドル活動をする女性にわいせつ行為をしたとして9月に逮捕された男が、アイドルのSNSに投稿された顔写真の瞳に映った景色を被害者の住所特定に使ったと報じられた。特定の技術は、すでに発信者の想像をはるかに超えている。
過去のツイートから身元を特定されるケースもあれば、名誉毀損なら発信者情報開示請求という手段もある。近い将来、AIで裏アカウントや匿名アカウントを自動で解析するサービスも出てきて、リスクマネジメントのニーズで利用が広がる可能性もありそうだ。
そんな中で個人の問題行動を抑止するにはどうすれば良いか。一筋縄ではいかないのは、本人の自覚も疑わしいことだ。問題視された匿名アカウントは長期間運用されているものが少なくない。今回問題となったアカウントは2011年から利用していた形跡がある。
単純に「発言には気をつけよう」では抑止効果は期待できそうにない。組織としては、むしろ実名で発言できないならSNS禁止だというところが出てきてもいいのかもしれない。もっともヘイトはTwitterなどの規約でも禁止行為だ。匿名実名問わず、社会的に受け入れられないものであることを広く共有し、伝え続ける必要がある。
社会情報大学院大学 特任教授 ビーンスター 代表取締役社会情報大学院大学特任教授。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/ |