9月に企業の広報文を代筆した日経の記者が諭旨退職処分となった。このように記者が「超えてはいけない一線」はいくつかある。過去の事例をもとに、記者と広報のあるべき関係性について解説する。
日本経済新聞社を退職して4年が経つが、今でも週刊誌などに同社がらみのニュースが出ると、連絡してくる関係者が何人かいる。「日経についてこんな記事が載っていたよ」と教えてくれるのだ。9月は『週刊文春』が二度も日経ネタを報じたので騒がしかった。
うちひとつについては毎日新聞も報じている。「日経新聞記者、諭旨退職処分 企業の広報文代筆」(9月19日付朝刊)という記事だ。同紙によると、企業報道部に所属する40代の記者が、取材先企業のプレスリリースを代筆。「記者として倫理上の問題が確認された」として処分されたのだという。
文春は、その企業と記者の間にトラブルが生じていたと報じているので、リリース代筆は処分理由の一部に過ぎないのかもしれない。いずれにせよ、日経としては記者と取材先との不健全な関係を疑われても仕方がないと判断して処分したわけだ。
過去には株取引や法案作成も
では、記者が取材先と付き合う上で「超えてはいけない一線」はどこにあるのだろう。
これは、なかなか難しい問題だ。コンプライアンスが厳しくなったとはいえ、記者の取材手法は多様なので、禁止事項を細かく定めるのは現実的ではない。大部分は「業界の慣行」や「それぞれの記者の相場観」に基づいて取るべき距離を判断しているのが現状だ。日経のケースも内規に「企業のプレスリリースを代筆したら諭旨退職処分」などと書かれていたわけではないだろう(少なくとも筆者には、そうした内規を見た記憶がない)。
そもそも禁止事項は報道機関によって異なる。例えば日経では、自社株を除き企業の株式を買うことは禁じられていた。相続などで株を持っている記者も会社に届ける。これはインサイダー取引の防止が第一の目的だが、取材先の株を持つことによる利益相反を避ける意味もあった。
しかし、日経ほど厳しい規定を設けていない新聞社も少なくないはずだ。日経は経済紙なので、もともと株取引を原則禁止にしていたうえ、社員のインサイダー取引事件が起きたため規定を細かくした経緯がある …