前回は初回ということで、大学業界、特に私立大学580校のヒエラルキーのトップに立つ大規模、有名、難関(入学偏差値が高い)大学とは一線を画す、追手門学院大学のような中堅以下の私立大学の立ち位置を中心に考えました。今回は、そうした社会的に注目されにくい中堅私立大学における広報部門(部署でいうと広報課)の役割と体制について、追手門学院大学を例に考えたいと思います。
中堅以下の大学こそ広報部門が必要
2018年9月に東京大学 大学経営・政策コース編『大学経営・政策入門』(東信堂)が発売されました。東京大学には大学経営のマネジメントを担う高度専門職および研究者を養成する大学院のコースが設けられており、本書はそのコースの教授陣によるテキストです。「広報に関してはどのような記述があるのだろう」と楽しみにしながら読みました。
第7章に「学生の募集戦略」が設けられ、本質的な広報の役割として「大学はどのような大学であるか、どのような方向を目指しているのかを学内外に広く情報発信し明らかにすることが最も重要である」とまとめています。しかし具体的な施策への言及はなく、第7章第5節の「大学の情報公開・広報と学生募集」でも大半は情報公開の重要性に関する説明でした。
大学広報といえば財政に直結する志願者を(短期的に)増やすことに特化した広告や受験生向けのイベントなど、「入試広報」と呼ばれる部分が私立大学ではとりわけ重視され、本質的な大学広報を担う部署も人材も不十分で体系化されていない、という背景が影響しているように思います。
文部科学省が全国の国公私立大学などを対象とした調査では(2012年10月公表)、広報担当部署が入試広報を業務としている大学の割合は、国立大学が27.1%に対して、公立大学が43.1%、私立大学が55.8%でした。
国公私立の内訳は明らかにされていませんが、学生数規模別でみると、1000人以下の小規模校は65%以上であるのに対し、1万1人以上の大規模校では23.4%でした。ちなみに追手門学院大学が該当する5001人以上1万人以下では、40.2%でした。入試広報のウェイトが国立よりも私立、規模が小さい大学ほど高いことを示しています。
中堅以下の私立大学広報の担当者の多くが、毎年定期的に行う入試広報用の見学会の開催や広告を出稿しながらプレスリリースを作成し、事件・事故・不祥事などの不測の事態の発生時にはメディア対応も行うというせわしない情景が目に浮かびます。
もっとも前回述べたように、中堅以下の私立大学はメディア(の背後にある社会)からの関心が低いポジションにいます。現状を認識せず、積極的な情報発信をしなければ取材の問い合わせが入ることもなく「入試広報中心で十分」ということになり、本質的な広報が付随的な業務になっている例も散見されます …