この世には「バカ」がつくほど愛される、PR上手な商品・サービスがある。そんな「PRバカ」と呼べる存在を求めて、筆者が仕掛人を訪ねていきます。

(右)ログバー CEO 吉田卓郎さん
(左)商品開発コンサルタント 美崎栄一郎(筆者)
File:8 ログバー「ili(イリー)」

左が7月31日から提供を開始した「ili PRO(イリー プロ)」。郵便局やホテル、病院などの法人向けに月額2980円~で貸し出す。
私が瞬間オフライン音声通訳・翻訳機の「ili(イリー)」を最初に目にしたのは、当時すでに海外で販売を開始していた2017年末。SNSがきっかけでした。
気になって詳しく見てみると、限定で国内先行販売の予約ができるとのこと。即座にポチッと購入してしまいました。ネット環境が必要なく、内蔵電池も含めて42グラムの端末でどこまで翻訳できるのかを見てみたかったのです。私は世界中を旅しているということもあり、それ以来イリーのユーザーなのですが、今では飛ぶ鳥を落とす勢いです。
翻訳といえばGoogle翻訳も便利なのですが、いかんせんグーグルのサービスですから通信環境があることが前提で、使いたいときに使えないのが難点。というのも海外の、特に電波が通じないような僻地のほうがコミュニケーションには困りますから、「通信しなくていい」というイリーのコンセプトには非常に魅力を感じます。
世界最大級のホテル予約サイト「Booking.com(ブッキングドットコム)」とのコラボ。草彅剛さん出演のCM。東京駅のKITTEほか都内主要郵便局での取り扱い、近畿日本ツーリストでの販売スタート、二子玉川などにある蔦屋家電での取り扱い開始……。発売してすぐなのに、すごい露出と展開のイリーなのですが、ここまで来るのは簡単ではなかったとも伺いました。
今回も非常に勉強になりました。スタートアップ企業の方には特にヒントになるんじゃないかと思います。
「Ring」の反省から生まれた
まずイリーの製品の説明をしますと、大きなボタンひとつ、42グラムの棒状の端末です。ボタンを押しながら「こんにちは」と言うと、「アニョハセヨ」と通訳した声がスピーカーから流れます。使い方はそれだけ。ものすごくシンプルです。
3カ国語対応になっているのですが、切り替えは横の小さなボタンを長押しすると「英語に切り替え中です。少々お待ちください」とアナウンスがあり、しばらくすると「英語に翻訳します」という言葉とともに英語モードに変わります。通訳が3人いるみたいです。通常、中国にいるときは中国語モードだけでいいはずなので、このモード切り替えはほとんど使わないかもしれませんが、何台も持っていく必要がないのが嬉しい。ほんとに言葉を勉強する必要がなくなりそうですね。
ログバーは、かつて指輪型のウェアラブルデバイス「Ring」がすごく話題になった会社でした。CEOの吉田卓郎さんと話していて、「おお!あのRingの会社だったのか」と記憶がつながりました。
Ringとは指輪型の端末を装着し、指で文字を描くような動作によって様々なものがコントロールできるウェアラブルデバイス。そのユニークな製品は注目が集まり、アメリカのクラウドファンディングサイト「Kickstarter(キックスターター)」で約1億円の調達に成功したのです。
ただ、世の中にない製品は使い方を習得するまでにとても時間がかかるという問題がありました。同時にハードウェアをつくるということは、在庫をたくさん抱えなければならないというリスクやでき上がるまでのリードタイムが必要でした …