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美崎栄一郎のPRバカ

SNS全盛期の今 あえてアナログで勝負!

富士フイルム「instax」

この世には「バカ」がつくほど愛される、PR上手な商品・サービスがある。そんな「PRバカ」と呼べる存在を求めて、筆者が仕掛人を訪ねていきます。

(右)富士フイルム イメージング事業部 インスタント事業グループ マネージャー
高井 隆一郎さん

(左)商品開発コンサルタント 美崎栄一郎(筆者)

    File:8 富士フイルム「instax」

    1998年に初代モデル「instax mini 10」が発売。2018年5月25日には正方形の写真が撮れる「instax SQUARE SQ6」を発売した。

富士フイルムのinstax(通称チェキ)の新製品、「instax SQUARE SQ6」が発表されました。国内では女優の広瀬すずさんが5月の新製品発表会に登場し、グローバルでは世界的アーティストのテイラー・スウィフトを起用するまでになっています。スマホ全盛期に、その瞬間の1枚しかプリントできないチェキが再攻勢をかけているのはなぜでしょうか?

結論から言うと、写真を撮って紙に現像する「体験」がその場でできることが世界中で売れている理由なのです。日本のチェキの売上と海外の売上の比率は、なんと1対9。完全にグローバルなプロダクトになっているのです。富士フイルムにて徹底取材し明らかになった、instaxの成功の裏側にあるエピソードや考え方を今回はお伝えしたいと思います。

商品と顧客の接点を変える

富士フイルム イメージング事業部 インスタント事業グループ マネージャーの高井隆一郎さんにお会いすると、まだ若い!というのが第一印象でした。老舗のフイルムメーカーで昔からある商品なのでもう少し年配の管理職が指揮を執っているのかと思いきや、そうではありません。

高井さんは赴任先のドイツでもinstaxの普及に尽力されたそうですが、製品として海外でたくさん売れるものになっているプロダクトだからこそ、海外の肌感覚がある人が陣頭指揮を執っているんだなぁと富士フイルムの人材の厚さを感じます。

「欧米ではアパレルショップや雑貨店などで、ファッションアイテムとしてinstaxが置かれています。通常の家電系の販路ではないところの開拓ですから、最初は大変でした。地道に販路開拓を続けた結果、お洒落なファッションアイテムとしての地位を確立したのです。アメリカでは、流行に敏感な若者をターゲットにした雑貨・アパレルブランド『アーバンアウトフィッターズ』などでも展開しています」と高井さん。

私のイメージでは、カメラといえば家電量販店、カメラ店で販売するものだと思っていましたが、欧米での成功はユーザー層に合わせたチャネル開拓にあったようです。

日本ではまだまだファッション系のショップでの比率は低いので、これらを上げていくことは課題のひとつだと言います。ロフトやハンズのようなチャネルでは既に展開しているようですが、広瀬すずさんと同年代の人たちが行くようなお店に今後は展開するということですね。なるほど、日本でもまだまだ拡大の余地はありそうです。

写真はライフスタイル

新製品SQ6を買って使い始めると、シンプルな構造に驚きます。スイッチを入れてシャッターを切るだけ。説明書がいらないレベルです。スイッチのボタンはカチッとスライドさせると電源がオンになるのですが、これはあえてアナログ感を残しているそう。自撮りする人のためにカメラの前面には小さな鏡が付いています。デジタル化時代に古いメタファーを商品に導入することで、お洒落でかつ説明不要にしているのです。商品を小型にしないのも同じ理由だと推測されます。

シンプルな商品の形にすることで、スペックを説明しないで済みます。写真の本来の楽しさは撮って見せることで、撮影操作を頑張ってすることではないですからね。デジカメだと雑貨屋には置きづらいですがinstaxならアリなのはこういう商品設計のおかげなのでしょう。顧客との接点を変えるためには、それに合った商品設計であることが成功の鍵となります。

スマホで写真が簡単に撮れるようになった時代の中で、アナログな現像が必要で、撮り直しができないという一見不便で古いテクノロジーに見えるインスタントカメラ。しかし需要がなくなっているわけではないのが面白いですね。

「撮った写真をすぐ見られるような時代になったからこそ、あえて不便でも問題ないのです。待つという行為もコミュニケーションする時間と思えば無駄ではありません。現像をすぐに見られないからこそ、像を結ぶまでの時間が楽しみになるのです」と高井さん …

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