800近くある国公私立大学が受験生や資金を求めて競争する教育現場。スポーツ選手を多く輩出する東洋大学で広報を務める榊原康貴氏が、現場の課題や危機管理などの広報のポイントを解説します。
大学広報として、卒業生の活躍を紹介することも重要な仕事です。実学系、芸術系、体育系……。その大学の学びのイメージにぴったり合った活躍をしている卒業生を広報することで、大学の印象がさらに高まります。教育・研究の成果ともいえる卒業生の存在が、目指す人材育成像(特に資格を活かした働きやプロとしての活躍)に合致すれば、広報効果は高まり、これから受験する高校生に卒業後の進路のイメージを持たせる意味合いも強くなります。
しかし、そうした卒業生の紹介に課題はないでしょうか。受験生を対象としたイメージづけだけが卒業生を取り上げる目的ではないとも考えます。
そこで今回は、大学をイメージづける卒業生の広報について書きたいと思います。
「学びとのリンク」が課題
東洋大学の卒業生数は2018年5月1日現在、31万8213人。毎年約7000人の卒業生が東洋大学から巣立っています。創立以来131年の歴史でこれほどたくさんの卒業生を輩出してきたのかと実感する数字です。
皆さんもご存じのように、東洋大学はスポーツの分野で活躍している卒業生がたくさんいます。しかし本学には、体育学部はありません。昨年、日本人初の100メートル9秒台を出した桐生祥秀選手は法学部、箱根駅伝で活躍する陸上競技部のメンバーの多くが経済学部。リオ五輪競泳金メダリストの萩野公介選手は文学部というように、必ずしも選手の活躍と卒業した学部の学問が一致しているわけではないのです。
例えば萩野選手は、海外など世界レベルの選手たちと渡り合うためには「コミュニケーション・スキルは必須、大学では英語コミュニケーションを学びたい!」ということで文学部に進みます。しかし、そうしたサイドストーリーのようなものはなかなか伝わりません。これは広報としても課題と捉えています。卒業生広報で意識する「学びとのリンク」の課題がそこには横たわります。
一方、歴史を紐解いてみると、東洋大学ではマスコミ分野で人材を多く輩出しようとしていました。1950年代に文学部から独立した社会学部では、当時テレビ局を買収し、テレビ授業を実施しようという計画がありました。今で言う「放送大学」が誕生する30年以上も前からそうした構想があったことに驚きを禁じえません。テレビ放送がこれからのマスメディアの中心となると予見し、その目玉として大学内にスタジオを完備、テレビ業界で働く人材育成を目指していました。
残念ながら放送局の買収は頓挫しましたが、「テレビ要員養成講座」として、アナウンサーやナレーター、シナリオライター、アートディレクター、メイク、カメラマン、俳優などを養成するコースが運営されていました。テレビ業界では一時期、東洋大学出身の卒業生が多かったと聞きますが、その効果があったのではないでしょうか …