800近くある国公私立大学が受験生や資金を求めて競争する教育現場。スポーツ選手を多く輩出する東洋大学で広報を務める榊原康貴氏が、現場の課題や危機管理などの広報のポイントを解説します。
2018年度が始まり、東洋大学広報課でも様々な新規プロジェクトが動き出しています。すぐに結果が出るものから数年後にその成果が表れるものまで、同時並行で取り組みます。特にいつか花開く成果を期待するような広報活動では、ゴール設定やスケジュール感などを明確にすることはもちろん、世間の話題にどのタイミングで乗っかっていくと効果的かをイメージすることが大切だと考えます。
そこで今回は、中長期的な広報計画について触れたいと思います。
研究をブランディングの中核に
現在、数多くある大学はその独自色を出すことに注力しています。建学の精神や学部学科の構成、教員組織、校舎などにもその独自性を見ることはできますが、大学は多くの人にとって入学することは一度きり。その大学の独自性を比較することが難しいのです。
今でこそオープンキャンパスや模擬授業などで大学を開放する機会が多くなりましたが、ちょっと体験入学して別の大学に移る、ということはおいそれとできません。受験のときに初めて訪れた大学へ入学した方も多いのではないでしょうか。
そのため、大学についての評価はイメージや感覚的に捉えられることも多く、既存のイメージを長く引きずる傾向にあります。それは伝統に裏打ちされた古き良きイメージばかりとは限りません。そのため、世間の持つ各大学に対する印象を変えていくことは一朝一夕にはできません。
例えば、カタカナ名の学部学科に代表されるように学問分野や教育手法は大きく変化し、インフラもかつての大学とは大きく異なります。特に世間からの大学の評価は入試とセットで語られることも多く、志願者数や偏差値ランキングなどがその大学のイメージ形成に大きく影響しています。教育成果とは別の軸で「受験」というある種、世間とブリッジしやすいキーワードで連想される大学のイメージの傾向は今後も色濃く残ることでしょう。
では、受験生を意識したイメージ形成だけに注力すれば大学の印象は変えられるのでしょうか。短期的には顧客確保の観点から広告的手法を使えばある程度可能と思われますが、それは対症療法に過ぎません。むしろ大学は高等教育機関として永続性が必要な組織であり、長期的なビジョンやそれにともなう広報活動が必要です。人を育てる教育活動はもちろんですが、大学は研究機関として、成果を通じて社会貢献を求められる組織でもあるのです。
様々な研究活動が豊かな社会へどのように貢献できるのか。知的拠点としてのイメージの醸成は、その大学の長期的なブランド形成に極めて重要な要素となります。海外のランキングを見ても研究分野での貢献度の比重が高い状況で、国際競争力をつけなくてはならない日本の大学の喫緊の課題と言えるでしょう …