複雑化する企業の諸問題に、広報はどう立ち向かうべきか。リスクマネジメントを専門とする弁護士・浅見隆行氏が最新のケーススタディを取り上げて解説する。
問題の経緯
2018年5月6日
アメリカンフットボールの日本大と関西学院大の定期戦で、日大の選手の悪質なタックルによって関学大の選手が負傷した。試合当日にはSNSを中心に批判が相次いだが、日大アメフット部の元監督・コーチが会見を開いたのは5月23日。29日には関東学生連盟が臨時理事会を開き、元監督とコーチの除名処分を決定した。
5月6日、日本大学対関西学院大学のアメリカンフットボールの定期戦で行われた日大の選手による危険なタックルやプレーについて、当時の内田正人監督・井上奨コーチによる指示があったのか否かを巡る議論が世間を賑わせています。
この一件が長期化している大きな要因は、日大による対応の遅さと不十分さです。危機管理広報の観点から見ると、関学大側への謝罪のタイミングが遅れるなど、消極的な広報対応は大失敗だったといえます。
それに加え、個々人の姿勢や態度にも問題がありました。元監督は関学大を謝罪訪問した際にピンク色のネクタイを締めていたり、「関西学院(かんせいがくいん)」を終始読み間違えたりしていたことで、非難を浴びました。広報に関しても、プレスリリースによる弁明内容の白々しさや、記者会見のタイミングの悪さ、内容や司会進行の稚拙さなど多くの問題点が指摘されています。
既に各種報道やウェブメディアでも分析がなされていますが、改めて本件における日大の広報対応を整理し、企業不祥事の発生時の危機管理広報に活かせるポイントを解説します。
危機管理の意識が欠けていた
事件が発生した後、日大は5月中に5回の関連情報を発信しました。その概要は図1の通りです。どれを見ても、「危機管理のための広報の場である」との意識が欠けていたように思います …