ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。
「『日本の獣医学部の質は落ちている』という山本幸三特命担当大臣の発言について」というタイトルの意見書が、全国大学獣医学関係代表者協議会会長と日本獣医学会理事長の名前で、6月、両団体のウェブサイト上に公開された。国家戦略特区を担当する山本地方創生相による、5月末の記者会見での発言を受けたものだった。
説明書きには、「広く一般市民、獣医師、報道関係、ならびに当該行政担当の方々に理解していただくために、獣医学教育改善の経緯と現状の概要を説明いたします」とあった。
状況に差はあれ、組織として看過できない物言いや世間の論調に対して何らかの声明を出すケースは幅広い組織であり得ることだ。そこで今回のように、業界全体に対する疑念、あるいは、例えば自社が取り扱う主要商品または素材の悪評が広がった場合なども含めて、仮に自分たちがコメントする状況になった場合の要点を考えてみたい。
要約・見出しなし4ページ
意見書は、大臣の発言の引用と、日本の獣医学教育・研究、そして大臣が「質が落ちている」根拠として触れた英国のランキングについて、の大きく3つのパートで構成された全4ページの文書である。ただし段落には分かれているものの、要約や見出し、図解や箇条書きもなく、広く一般市民に理解を求めている割には、読みやすさへの配慮が乏しい。
内容も分かりにくい。「日本の獣医学部の質は落ちている」という発言への意見なので、まず結論として「質は落ちていない」もしくは「上がっている」のだと読者は期待して読むが、「決してそうではない」「質を向上させつつある」などと主張が弱く、はっきりしない表現に終始しており、中身の割に長い。意見書と言いつつ大臣の発言に強く抗議しているわけでもなく、自分たちの努力を見てほしい、さらなる支援が必要だ、といった程度のメッセージしか伝わってこない。
議論を促す発信にしたい
組織や団体が意見書や声明を出すにはハードルがある。意見書を取りまとめるだけでも手間取りやすく、そのため何らかの発信をすること自体をゴールにしがちだ。その場合、組織としては声明を出したことで必要な対応をしたと考えるが、外部からは、発信内容が曖昧で妥協の産物に見えることが少なくない。それではむしろネガティブな印象を生む危険性があるのだ。
例えば今回の場合、内容の分かりにくさに加え、PDFで公開されたこの文書をSNSでシェアしようとしてもタイトルが数字のファイル名になっていたり、サムネイル画像も表示されなかったりする。ネットに詳しいメンバーを巻き込んでいないことが明らかだ。ネットは「話題になっているものが見られる」世界である。情報は発信して終わりではなく、新たな議論が生まれることで多くの人の関心を集め、新たな理解が得られることを、発信する組織内でもしっかり共有しておきたい。
社会情報大学院大学/客員教授 ビーンスター 代表取締役 米コロンビア大院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。2017年4月から社会情報大学院大学客員教授。著書はシリーズ50万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。 |