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ウェブリスク24時

「重要な経営課題」との記載で混乱を招いた緊急会見の告知

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

今年2月、全日本空輸(ANA)は「重要な経営課題」について社長出席で緊急の記者会見を開催すると報道各社に告知した。これが昼のニュースで流れると、何ごとかと憶測が飛び交い、持株会社の株価は下落。実際の会見は社長交代のお知らせだった。

記者会見を開く側の狙いというのは、できるだけ多くの人に注目をしてもらい、ニュースを届けようというものだろう。そのために会見には少しでも多くのメディア関係者に集まってもらいたいと考える。緊急会見ならなおのことだ。

これに対して、取材する側にも予定がある。あくまでニュース価値の大きさに基づいての判断だ。一方で、告知する側としては、情報開示の公平性から、会見の詳細を事前には伝えられない。そこで広報は、間接的な表現で重要性を判断してもらおうとする。

今回のANAの場合、それが「重要な経営課題」についての「緊急会見」を「社長出席」で「午後3時から」開催する、というものだった。告知したのは会見当日の午前のことだ。

複数の重要キーワード

この表現は、内容を伝えずに重要性だけ伝えるという観点では、おそらく最上級のアラートといえる。午後3時は株式市場取引時間終了直後、つまり客観的に見て株価に影響を与えることが想定されるレベルの「重要な経営課題」であり、社長が伝える緊急ニュース、という意味になっている。

その結果、この記者会見が開かれること自体がニュースになった。これに持株会社ANAホールディングスの株価が反応、下落を始めた。その後、一部メディアが会見の内容は「社長交代」と報じたものの、株価は乱高下。ロイターは14時過ぎに「ANA株が一時7%超下げ、社長交代に加え悪材料発表との思惑」との記事を出している。

社長交代に拍子抜け

結果的に、会見には目論み通り大勢のメディア関係者が集まった。そして会見内容は社長交代「だけ」だった。会見場では新社長の幼少期の話など、人となりを聞くような和やかな質問が繰り返される。まるでお見合いだ。一方ネットでは、「ただの社長交代かよ」「人騒がせ」といった声があふれた。あわてて株を売った人の恨み節と見られるものもあった。

会見で篠辺修社長(当時)は「重要な経営課題という表現が株価に影響してしまいました。今後の人事発表では、他の表現にします」とし、「ただ、社長人事も重要な経営課題なのですが」と苦笑いしながら語っている。

社長人事の重要性に疑問はないが、適切な告知の表現ではなかった。広報の教訓としては、発信するキーワードで、どんな憶測が生じるかを想像できる感覚をつかんでおきたい。東芝など大手企業が経営を揺るがす問題を起こす中、「重要な経営課題」という表現でポジティブなニュースを予期させるとは思えない、というのが一般的な感覚だろう。つまり「重要な」という表現自体が、言葉の意味を超えてネガティブな信号になっている。これを感じ取る必要がある。

タイトルと内容に大きなギャップがあるとき、記事なら「釣り」と批判される。告知と内容に乖離(かいり)がないかを判断できるのは広報しかいない。

ビーンスター 代表取締役 鶴野充茂(つるの・みつしげ)

国連機関、ソニーなどでPRを経験し独立。米コロンビア大院(国際広報)卒。日本パブリックリレーションズ協会前理事。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ50万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。最新刊は『頭のいい一言「すぐ言える」コツ』(三笠書房)。
公式サイトは http://tsuruno.net

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